最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜

第7話 採用試験

 採用試験は、王都ローゼン中央区、王城外郭に位置する近衛騎士隊の詰所で行われることとなった。詰所といっても立派な場所で、下町の自警団が使うような小屋とは訳が違う。堅牢を形にしたような石造りの二階建てで、小さな城塞と表現した方がふさわしい。

 正面玄関には王国近衛騎士隊〈翡翠(アイスフォーゲル)〉のカワセミが青地に白で抜かれた隊旗とローゼンシュタット王国の薔薇に一頭竜の王国旗が二つ飾られている。

 エミリーは詰所のベンチに腰かけて面接の時間を待っていた。ここまで連れられたのはアーベントロート公爵家の御用馬車によってだったが、ここからは違う。エミリー一人で何もかもを対処せねばならない。

 覚悟が自然と固まる。いや、あの軽薄極まりない公爵閣下が隣にいないというだけで、だいぶ心に余裕ができるものだ。今だったら空も飛べそうだ。

 さて、そこに、廊下の奥から歩いてきた男たちが三人。
 
「ああ、あれが公爵閣下の、お・き・に・い・り、か」

 わざわざ音節を区切るようにして発音してきたのは、一番体格がいい男。

「公爵サマのベッドで腰振ってりゃいいんだもんな、お気楽なもんさ」

 痩せ気味の男がそれに乗じて言った。

「おやおや、聞こえてしまいますよ。でもまあ、僕たち近衛騎士隊を莫迦にしてくれて、いい気なものですね」

 さらに中肉中背の男は、さぞかし近衛騎士隊が崇高なものであるかのように、そう付け加える。

 エミリーは顔には出さなかった。ただ、許可されていれば三人の股間を好きなだけ蹴り砕きたい衝動には駆られた。

「おい、人殺し童貞ども。中央の温室育ち。甘ったれおぼっちゃん。近衛騎士同好会。臆病者に殺せるのは虫くらいなものか?」
 
 代わりに口をついて出たのはそんな言葉。

「……はあ?」

 最初に口を開いた大男が胡乱な声をあげた。

「あらあら、聞こえていたかしら。申し訳ございませんわ。私ったら、最前線で人を殺すことが特技でしたの。童貞のあなたたちとは違って」
 
 痩せぎすの男がやや怯んだ。それを見て、中背男は顔を赤らめた。
 
「女、模擬戦の相手は俺たちだ。公爵閣下に泣いて縋る準備をしとけよ」
 
 大男がそのように場を締めて、若干ばつの悪そうに立ち去っていった。
 
「よし。三人ね。顔は覚えた。ぶっ殺す」
 
 エミリーはかつての闘犬のような、どす黒い闘争本能がこんこんと胸の内に湧き始めたのを悟っていた。ベンチに座ったまま、犬歯を剥き出しにして、ひとしきり一人で嗤っていた。
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