最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜

第8話 贈賄収賄

 彼は言った。

「これは合格祝いであって、決して贈賄収賄の類いではない。心して受け取られるように」

 だから、エミリーは言った。

「世の中の贈賄収賄は往々にして『祝い金』だの『お菓子』だのと称して贈られるものなのですよ。……ご存じでしたか?」

「これは失礼。そうかそうか、知らなかったなあ。無知は人間の罪というが、俺は無垢といったところでな? 純粋な気持ちの贈り物を、世の中では真心という。およそ、俺は人の醜い感情とは切り離された環境で育ったものゆえ、こと品性感性において貴殿とは成り立ちが違うのかもしれない。いやはや、こいつは迂闊だった」

 嘘つけ。

「では、あなたのおっしゃる『真心』を私が跳ね除けた場合、あなたは贈賄の罪を犯す懸念を限りなく減らせますわ。無垢な方には罪穢れにも無垢でいてもらいたいですもの。……ああ、めでたし、めでたし。めでたすぎて頭痛が痛いわ。今なら馬から落馬だってできそう」

「君は、たまに可愛くない」

「あなたのおっしゃる『可愛い』は、さしずめ『言いなりになる』の間違いでしょうね」

「では、今このとき俺の目論見通り、俺の言いなりになって反抗している君は、『可愛い』と言い換えて差し障りないわけだ。まこと、言葉の綾とは、便利なもの。人類の叡智、ここに極まれり」

「……っ」

 むかつく。

「とにかく、遠慮は軍規違反だ」

「そんな軍規はございませんが」

「これまた失礼。たった今、元准将権限にて作成したもの」

 わざとらしく肩をすくめる彼。

「立法権を私物化しないでいただきたい、()閣下!」

「今も公爵()()だ。……ご存じだったろうか?」

 ああ言えば、こう言う。この男は建設的な話が成り立たない。いや、話を成り立たせないのだ。

「うるさいっ、もういいっ」

「公私は混同してこそ、趣があるというもの……」

「あなたの公私には『公』がないんでしょうね! 私利私欲なんです!」

「利己的であるのは君の方では? もっと利他的に考えて、俺を喜ばせることもできように」

「うるさい!」
< 31 / 33 >

この作品をシェア

pagetop