最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
 配属予定日は九月の第三週。一日に一度出る汽車がアンシャル駅に到着するのは正午前後だが、駅から砦まで徒歩で小一時間。到着は午後になるだろう。

「連隊長殿。新任に迎えは出しますか」

 シュネーリヒトが尋ねてくるので、カイは便箋を封筒に仕舞い込んで答えた。

「いつも通りだ。いらんだろう。女性士官だからといって、優遇してやる必要はない」

「おっしゃる通りで。まずここに辿り着けないようでは、〈白鳥(シュヴァーン)〉には縁がない」

 背筋の伸びがいいシュネーリヒトが、眼鏡のブリッジを手で押さえるようにして淡々とうなずく。

「そうだ。『一にも二にも自助努力』がここの挨拶。できなければ、明日はない。それだけさ」

 そう答えたのは半分本心で、半分は試験である。アンシャル砦への道は舗装もなく、道標もなく、ただ荒野に延びる獣道。そんな場所を辞令書の地図一つを頼りにせねばならない。

 迷う新任もいる。辿り着いても遅刻して泣く新任もいる。ごくごく稀に、砦の方角とは逆方向に歩いて国境を超えかける大物もいた。つまり、到着できた時点で及第点。到着できなければ、そもそもこの連隊には縁がない。

「シュネーリヒト。彼女は可愛いだろうか」

「公私混同をなさるおつもりで?」

「まさか」

「少なくとも、私は『可愛い』と『兵士である』は両立するように存じます」

「そうであるといい。そうであってほしい」

「はい、連隊長殿」
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