最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
序章2 パンの耳
気づけば王都ローゼンのスラムにいた。どうしようもなく痩せこけた名無しのクソガキで、パン屋の路地裏で捨てられたパンの耳を野良犬と奪い合って不毛に争う日々を送っていたはずだった。
盗みは考えなかった。女のガキだ。下手に捕まったら花街に売られることをその歳で本能的に理解していたのだと思う。
割れた鏡の破片で髪を短く切って、服屋の廃棄から失敬したぶかぶかのコートを羽織って、男のふりをしていた。パン屋の店主は名無しがたびたびゴミ捨て場に来ることを知っていた。
毎朝五時を知らせる鐘が鳴らされる頃、すでに煙突からパン窯の煙が白く細く立ち昇っている。朝一番にゴミ出しを終えたとき、わかりやすく真っさらで清潔な紙袋の中に、サンドイッチに使った余りのパンの耳を入れてくれていた。野良犬もそれをわかっていて、早い者競争だった。敗者はカビたチーズだ。それはもう勝ちたい。
野良犬が現れないのは雨の日くらい。パン耳が雨に濡れるから、最悪だった。溶けてぐずぐずになってしまった、かつてパン耳だった何かを泥水と啜るように飲み下していた。
嬉しかったのは、ついに凍え死ぬかと覚悟した吹雪の朝。視界がホワイトアウトして、いつものパン屋の煙さえ見えなかった。それでも身体を切り裂かれるような暴風の中でパン耳を漁りにきた。すると、パン屋のいかつい老店主が堂々と腕を組んでゴミ捨て場の前に立っていた。
「ひっ……」
殺されるかと思った。逃げ出そうかと思った。でも、老店主は、にかっと白い歯を見せて笑ってこう言ったのだ。
「お嬢、今日は厚切りローストチキンを挟んでハニーマスタードをたっぷり塗った出来立てほやほやのホットサンドがあるぜ。うちの看板商品だ。うまいぞ?」
こうして名無しは老店主に拾われ、養女になった。
盗みは考えなかった。女のガキだ。下手に捕まったら花街に売られることをその歳で本能的に理解していたのだと思う。
割れた鏡の破片で髪を短く切って、服屋の廃棄から失敬したぶかぶかのコートを羽織って、男のふりをしていた。パン屋の店主は名無しがたびたびゴミ捨て場に来ることを知っていた。
毎朝五時を知らせる鐘が鳴らされる頃、すでに煙突からパン窯の煙が白く細く立ち昇っている。朝一番にゴミ出しを終えたとき、わかりやすく真っさらで清潔な紙袋の中に、サンドイッチに使った余りのパンの耳を入れてくれていた。野良犬もそれをわかっていて、早い者競争だった。敗者はカビたチーズだ。それはもう勝ちたい。
野良犬が現れないのは雨の日くらい。パン耳が雨に濡れるから、最悪だった。溶けてぐずぐずになってしまった、かつてパン耳だった何かを泥水と啜るように飲み下していた。
嬉しかったのは、ついに凍え死ぬかと覚悟した吹雪の朝。視界がホワイトアウトして、いつものパン屋の煙さえ見えなかった。それでも身体を切り裂かれるような暴風の中でパン耳を漁りにきた。すると、パン屋のいかつい老店主が堂々と腕を組んでゴミ捨て場の前に立っていた。
「ひっ……」
殺されるかと思った。逃げ出そうかと思った。でも、老店主は、にかっと白い歯を見せて笑ってこう言ったのだ。
「お嬢、今日は厚切りローストチキンを挟んでハニーマスタードをたっぷり塗った出来立てほやほやのホットサンドがあるぜ。うちの看板商品だ。うまいぞ?」
こうして名無しは老店主に拾われ、養女になった。