最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
 駄々を捏ねて、ガラス水槽を買ってもらって、蛹をガラス水槽に入れて暖かな部屋で羽化まで待つことにした。世話の仕方を知るために生物図鑑が必要だったのだ。

 でも、ある朝、羽化は終わっていた。蝶が一匹、水槽の止まり木にとまっている。やはり、アゲハチョウだった。

「おじいさん、見れなかった……」

「また、来年も見れるさ。お前さんは若い。何度だって見れる」

 クラウスじいさんは、次の新年早々に風邪を引いて、こじらせてしまった。元々生まれつき肺が弱かったそうで、いつかはこうなることをわかっていたようだった。

「お前さんはな、どうしようもなく俺の可愛い孫なんだよ。エミリー……」

 確かにそう言って、クラウスじいさんは息を引き取った。

 お店は見習いの青年が引き継ぐそうだが、もう、おじいさんの焼いたほかほかパンは食べられないのだと思うと、悔しかった。

 問題はエミリーの将来だった。

 スープの薄い孤児院に行くか、食事はしっかりしている軍の幼年学校に入学するかを悩んで、エミリーは幼年学校を選んだ。

 そこから先はもう、生きていくのにいっぱいいっぱいだった。クラウスじいさんの遺言で、お店以外の遺産はエミリーに相続されるようになっていたのだが、子供のエミリーでは引き出すことができなかった。なぜか申し訳なさが立って、今の今まで手をつけられないでいる。

 これは、彼の本当の孫に用意されたものであって、たった一年を一緒に暮らしただけのクソガキには勿体無い。退役年金だけで暮らしていたのは、そういう理由だった。
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