最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
そして、エミリーには射撃の才能があった。
初めて小銃を握った日のことは忘れられない。ある日、教官が的を撃ってみろ、と指示を出した。その通りにして、的の中心付近に五発中四発を当てた。
お前は才能があるな、と褒められた。単純なことだったが、一つ単語のスペルを覚えるたび頭を撫でて褒めてくれたクラウスじいさんのことが思い出されて、気持ちが綻ぶような感覚すらあった。すっかり調子をよくしたエミリーは射撃実習に没頭していった。
五年が経って十六歳、卒業になった。
「お前の配属先が決まった。〈白鳥〉……第五遊撃連隊だ」
第五遊撃連隊〈白鳥〉の駐屯地は、王都ローゼンから汽車で丸二日の東端アンシャル駅にある。隣国との国境沿いにぽつんと打たれた黒い点。辺境も辺境、最果てのアンシャル砦。
どこかの国のとてつもなく古い言葉で「アンシャル」とは「天の中心」を意味するらしい。だとしたら、辺境砦の名前としては、まったくの皮肉だった。
汽車はしばらくはのどかな田園地帯を走っていたが、やがて、岩と低木ばかりの荒涼とした原野が広がり始めた。終着駅には駅舎と呼ぶのもおこがましい木造の小屋があるだけ。ホームに降り立つと、冷たい風が肌を刺す。まだ九月だというのに、吐く息がうっすら白い。王都とは気候からして違うらしかった。
出迎えはなく、舗装されていない土と砂利の道を砦へ向かってとぼとぼ歩く。辞令書の地図を頼りに歩くこと小一時間、ようやく石の城壁にぐるりと取り囲まれたアンシャル砦が見えてきた。
城壁の上にはためく軍旗は黒字に白抜きの白鳥。こんな荒野に〈白鳥〉なんて優雅な名前を冠しているのもまた、どこか皮肉めいている。色味からすれば、白鳥の純白をした成鳥ではなく、その雛の灰色といった方がまったくもって正しいのだった。
正門前を守る番兵にびしりと敬礼すれば、敬礼を返されることなく顎をしゃくってきた。
「新任の女性士官か。……連隊長なら、たぶんバラックの風呂だな」
たぶん。ずいぶんと呑気な響きを帯びた駐屯地だった。牧歌的というか、なんというか。
初めて小銃を握った日のことは忘れられない。ある日、教官が的を撃ってみろ、と指示を出した。その通りにして、的の中心付近に五発中四発を当てた。
お前は才能があるな、と褒められた。単純なことだったが、一つ単語のスペルを覚えるたび頭を撫でて褒めてくれたクラウスじいさんのことが思い出されて、気持ちが綻ぶような感覚すらあった。すっかり調子をよくしたエミリーは射撃実習に没頭していった。
五年が経って十六歳、卒業になった。
「お前の配属先が決まった。〈白鳥〉……第五遊撃連隊だ」
第五遊撃連隊〈白鳥〉の駐屯地は、王都ローゼンから汽車で丸二日の東端アンシャル駅にある。隣国との国境沿いにぽつんと打たれた黒い点。辺境も辺境、最果てのアンシャル砦。
どこかの国のとてつもなく古い言葉で「アンシャル」とは「天の中心」を意味するらしい。だとしたら、辺境砦の名前としては、まったくの皮肉だった。
汽車はしばらくはのどかな田園地帯を走っていたが、やがて、岩と低木ばかりの荒涼とした原野が広がり始めた。終着駅には駅舎と呼ぶのもおこがましい木造の小屋があるだけ。ホームに降り立つと、冷たい風が肌を刺す。まだ九月だというのに、吐く息がうっすら白い。王都とは気候からして違うらしかった。
出迎えはなく、舗装されていない土と砂利の道を砦へ向かってとぼとぼ歩く。辞令書の地図を頼りに歩くこと小一時間、ようやく石の城壁にぐるりと取り囲まれたアンシャル砦が見えてきた。
城壁の上にはためく軍旗は黒字に白抜きの白鳥。こんな荒野に〈白鳥〉なんて優雅な名前を冠しているのもまた、どこか皮肉めいている。色味からすれば、白鳥の純白をした成鳥ではなく、その雛の灰色といった方がまったくもって正しいのだった。
正門前を守る番兵にびしりと敬礼すれば、敬礼を返されることなく顎をしゃくってきた。
「新任の女性士官か。……連隊長なら、たぶんバラックの風呂だな」
たぶん。ずいぶんと呑気な響きを帯びた駐屯地だった。牧歌的というか、なんというか。