Room
(第三章)
駅からマンションまでの道を急ぐ。
息が切れていることだけは、分かる。
信号。
横断歩道。
エントランス。
身体が、勝手に進んでいた。
オートロックを抜ける。
ロビーの照明が、やけに明るい。
誰もいない。
それでも、視線のようなものを感じた。
郵便受けの前で、立ち止まる。
いつもなら、広告を流し見して終わる場所だ。
今日は、違った。
扉を開ける。
紙の感触がある。
チラシではない。
封筒だった。
白い。
宛名も、差出人もない。
軽い。
だが、持ち上げた瞬間、わずかな重さを感じた。
周囲を見る。
誰もいない。
息を止めたまま、封筒を引き抜く。
指先が、少し震えている。
中を見る前に、バッグの中のレシートの感触がよみがえる。
これは、違う。
そう思った。
郵便受けは、外と、家のあいだにある。
封を切る。
中には、便箋が一枚。
手書きだった。
文字は整っていて、癖がない。
読み進めるうち、胸の奥が、静かに揺れた。
特別な言葉は、書かれていない。
好意。
関心。
距離を詰めようとする、丁寧な文章。
ただ、いくつかの記述が、引っかかる。
帰宅の時間。
服装。
最近の様子。
偶然と呼ぶには、数が多い。
誰かが、見ている。
外から。
それとも――。
封筒を、バッグに押し込む。
立ち止まらない。
考えない。
エレベーターへ向かう。
背中に、何かが張りついている感覚が残る。
振り返らない。
振り返ったら、何かを見る気がした。
エレベーターが到着する。
扉が開く。
誰もいない。
一度だけ後ろを確かめて、乗り込む。
扉が閉まり、上昇を始める。
軽い振動。
機械音。
天井の防犯ミラーが、視界の端に入る。
見ない。
見る必要はない。
そう思った瞬間、ミラーの中で、何かが動いた。
一瞬。
人影のようなもの。
自分の、背後。
心臓が、強く打つ。
振り返る。
誰もいない。
エレベーターの中には、自分しかいなかった。
もう一度、ミラーを見る。
何も映っていない。
錯覚だと、処理しようとする。
それでも、背後に余白がない感覚だけが、残った。
階数表示が、ひとつずつ増えていく。
その間ずっと、
自分の立っている位置が、
誰かと重なっているような気がしていた。
扉が開く。
逃げるように、外へ出る。
廊下は、いつも通りだった。
照明。
ドア。
非常口の表示。
現実だと、分かる。
それでも、心拍は下がらない。
部屋の前に立つ。
息が切れていることだけは、分かる。
信号。
横断歩道。
エントランス。
身体が、勝手に進んでいた。
オートロックを抜ける。
ロビーの照明が、やけに明るい。
誰もいない。
それでも、視線のようなものを感じた。
郵便受けの前で、立ち止まる。
いつもなら、広告を流し見して終わる場所だ。
今日は、違った。
扉を開ける。
紙の感触がある。
チラシではない。
封筒だった。
白い。
宛名も、差出人もない。
軽い。
だが、持ち上げた瞬間、わずかな重さを感じた。
周囲を見る。
誰もいない。
息を止めたまま、封筒を引き抜く。
指先が、少し震えている。
中を見る前に、バッグの中のレシートの感触がよみがえる。
これは、違う。
そう思った。
郵便受けは、外と、家のあいだにある。
封を切る。
中には、便箋が一枚。
手書きだった。
文字は整っていて、癖がない。
読み進めるうち、胸の奥が、静かに揺れた。
特別な言葉は、書かれていない。
好意。
関心。
距離を詰めようとする、丁寧な文章。
ただ、いくつかの記述が、引っかかる。
帰宅の時間。
服装。
最近の様子。
偶然と呼ぶには、数が多い。
誰かが、見ている。
外から。
それとも――。
封筒を、バッグに押し込む。
立ち止まらない。
考えない。
エレベーターへ向かう。
背中に、何かが張りついている感覚が残る。
振り返らない。
振り返ったら、何かを見る気がした。
エレベーターが到着する。
扉が開く。
誰もいない。
一度だけ後ろを確かめて、乗り込む。
扉が閉まり、上昇を始める。
軽い振動。
機械音。
天井の防犯ミラーが、視界の端に入る。
見ない。
見る必要はない。
そう思った瞬間、ミラーの中で、何かが動いた。
一瞬。
人影のようなもの。
自分の、背後。
心臓が、強く打つ。
振り返る。
誰もいない。
エレベーターの中には、自分しかいなかった。
もう一度、ミラーを見る。
何も映っていない。
錯覚だと、処理しようとする。
それでも、背後に余白がない感覚だけが、残った。
階数表示が、ひとつずつ増えていく。
その間ずっと、
自分の立っている位置が、
誰かと重なっているような気がしていた。
扉が開く。
逃げるように、外へ出る。
廊下は、いつも通りだった。
照明。
ドア。
非常口の表示。
現実だと、分かる。
それでも、心拍は下がらない。
部屋の前に立つ。