こもれび日和
「え?」

「あとで……おかえりのしたくのときに、
 おにわで待っててくれる?」

歩の胸が、どくんと鳴った。

(は、話したいことって……もしかして……!
 “すき”って……そういう……!?)

顔が一気に熱くなった。

「……う、うん!」


その日の保育園は、
いつもと同じように遊びがあって、お昼ごはんがあって、お昼寝があって。
でも歩にとっては、
ぜんぜん“いつもどおり”じゃなかった。

(ど、どうしよう。なんて言われるんだろ。
 ぼくも、ユイちゃんすきです、って言ったほうがいいのかな……)

となりで直がブロックを積んでいても、
トモが「みてみて!スペシャルロボ!」と自慢してきても、
歩の頭の中は、ユイのことでいっぱいだった。

そして、ついに帰りの時間。
みんながリュックを背負い始める。

「それじゃあみんな、さようならのうたを歌いましょう〜」

先生の歌声も、
その日だけは、妙に遠く聞こえた。

歌が終わると同時に、歩は立ち上がった。

「……いってくる」

直が心配そうに見上げる。

「歩、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶ!」

そう言ってみたものの、
足はふわふわしていて、心臓はさっきよりもっと騒がしかった。


園庭の隅。
すべり台の近くのベンチに、ユイは座っていた。

風が少し冷たくて、
ユイの髪がふわりと揺れる。

「ユイちゃん!」

歩が駆け寄ると、
ユイは振り返って、いつものように微笑んだ。
……けれど、その目の奥は、やっぱり少し潤んでいる。

「きてくれて、ありがとう」

「う、うん。
 あのさ、さっきのおかえし、ちゃんと——」

言いかけたところで、
ユイはぎゅっと水色の袋を抱きしめた。

「歩くん……」

その声は、いつもより少し震えていた。

「わたしね……ミドリカワ町に、ひっこすことになったの」

「……………………え?」

言葉の意味が、
すぐには頭に入ってこなかった。
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