こもれび日和
それから1年経った春夏秋冬家は、朝からそわそわしていた。
 「律さん! 子どもたち用のお布団、もう干した?」
 「えっ!? えーっと……まだだ! いま干してくる!」

 律は慌ててベランダに布団を抱えて飛び出した。が、勢い余ってサンダルが片方脱げ、隣の植木鉢に突っ込んでしまう。
 「いててて……」
 「大丈夫? 怪我したら子どもたちに笑われるわよ」蘭が苦笑しながら冷たいタオルを渡した。

 午後になると、今度は台所が戦場になった。
 「明日の朝ごはん、何にする?」
 「やっぱり卵焼きとおにぎりかな。子どもは甘めの卵焼きが好きって聞いたけど……」
 「でも歩くんと直くんが“しょっぱい派”だったらどうするの?」
 「……両方作るか!」
 「あなた、気合入りすぎよ!」

 そして夕方、二人は子ども部屋を整え始めた。
 「机はこっちにしたほうがいいかな?」
 「いやいや、布団を並べるスペースを考えたらあっちだろう」
 「うーん……じゃあ、真ん中にテーブル置いて……」
 「それじゃ寝返りしたら頭ぶつけるって!」

 模様替えは何度も繰り返され、結局、日が沈むころには二人とも汗だく。部屋はすっかり片付いたけれど、夫婦の髪はボサボサ、エプロンにはホコリと汗のシミ。

 夕飯を食べながら、蘭はぽつりとつぶやいた。
 「ねえ……私たち、ちゃんとやっていけるかな」
 律は一瞬黙ったが、すぐに真剣な顔で答えた。
 「正直、すごく不安だ。でもな――二人を幸せにしたいって気持ちは本物だ。失敗しても、何度でもやり直せばいい」

 蘭はその言葉に、ふっと笑みを浮かべた。
 「そうね。ドタバタでも、不器用でも……二人に“帰ってきたい家”って思ってもらえるようにしよう」

 その夜、二人は眠る前に子ども部屋をそっとのぞいた。
 きれいに並べられた布団、窓から差し込む月明かり。
 「明日からここで、あの子たちが眠るのね」
 「……よし、がんばろう」

 胸に少しの不安と、大きな期待を抱えながら、律と蘭の長い夜は更けていった。
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