こもれび日和
しばらくして、歩の涙が止まった。

顔をぬぐい、蘭の方を見た。

「……ごめんね。ないちゃって」

蘭は笑って首を振った。

「泣いていいのよ。思い出すのは、大切なことだから」

律もにっこりと笑って言う。

「ママがきっと、“がんばってるね”って言ってくれてると思うよ」

直は、ぎゅっと歩の手を握りなおした。

「ここにいても、ぼくたちはママの子どもだよ」

歩は、うんとうなずいて、目の端をぬぐった。

「また、マフィンつくりたい」

「もちろん。今度はりんごじゃなくて、バナナとか入れてみようか」と蘭。

そしてまた、みんなで小さく笑った。


その夜、歩はすやすやと眠った。

夢の中で、小さなマフィンのにおいがしたような気がした。

優しい声とぬくもりが、静かに寄り添っていた。
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