この度、元副総長さまが会社の先輩になりまして。
「今日、そういえば夢に出てきたんですよ、千景さん。だからほんとびっくり、正夢になるなんて」
「は」
「あ、円さんも出てきたんですけどね、だから厳密に言うと正夢じゃないんですけど、でも、こんなことってあるんだ〜って」
「……あー、円もね」
なにかへんなこと言っただろうか。千景さんは困ったみたいに少しだけ眉根を寄せて、視線を逸らした。
ハイハイマドカネ、って、千景さんはロボットみたいに感情を消し去って、もう一度つぶやく。
やばい、地雷踏んだのかも? 千景さんからしたら、中学時代の記憶なんて、ひょっとしたら私以上に思い出したくない黒歴史なのかもしれないし。
どうしよう、と内心焦っている私のきまりの悪さを感じとったのか、
「まあ、こうして会ったのもなんかの縁だし、今度はふたりで飲もーよ。連絡先おせーて」
ん、と差し出されたスマホの画面にはQRコードが映し出されている。
追加された連絡先のアイコンには、海外のカラフルな街並みを歩く千景さんの後ろ姿が写っていた。今よりちょっと髪の毛が茶色い気がするから、大学時代の写真だろうか。
「そういや、配属先ってもう決まってんの?」
「いえ、まだなにも聞かされてないです」
「そっか、初日に辞令出るんだっけか」
「時に、千景さんは地獄からの使者なんですか?」
「え、俺ってそうなの?」
「………」
知らんです、私が知りたいんです。けれど千景さんのぽかんとした顔から察するに、本人は自分の部署を地獄だとは認識していないのだろう。ある意味しあわせなのかもしれない。もしくは中学時代に地獄を見すぎて感覚が麻痺しているのかもしれない。
「ま、どの部署に配属になっても周りを頼りにするといーよ。基本みんなフランクで優しいから」
「そうですね」
「日下さんは見てのとおり特別変わってるけど」
「……あはは」
どうやらそこの感覚は一緒らしい。そうですねと言うのはたいへん失礼だと思ったからあははと笑ってみせたけれど、結果としてそうですね以上に失礼な返しになってしまった気がする。
「それに」
「? はい」
「俺もいるし」
「ひゃっ、!?」