契約結婚は終了しました
 怖い顔をして車のそばに立っているのは、間違いなくヴィクターだ。

(どうしてここに?)

「あれ? ロブソンの旦那様だ。いらっしゃい、どうしたんですか?」

 呆然とするメリーベルの脇をすり抜け、ギルが人懐っこい顔で声をかけると、ヴィクターはホッとしたように表情を緩めた。どうやら怖い顔に見えたのは緊張していただけらしい。
 なぜ緊張していたのかはわからないと首を傾げたメリーベルは、あることに気づいてハッとした。

(もしかして、大事な話を聞く前に私が出ていったから怒ってらっしゃる?)

 失敗したと思った。でも同時に、そのおかげでまた彼に会えたことを喜んでいる自分もいる。

 招き入れようと一歩踏み出すと、意を決したようなヴィクターの表情に戸惑った。見たこともないような真剣な顔に、ギルも何かを感じたらしい。

「ぼく、お茶の用意をしてきますね」

 そそくさと家の中に入ってしまった。

「あ、あの、旦那様――ではなく、ヴィクター様。むさくるしいところですが、よかったら中に」
「メル!」
「っ!」

 気づくとヴィクターの腕の中にいた。

「ヴィ、ヴィクター様?」
「なぜ出ていった。大事な話があると言っただろう」
「え、あの、すみません」

 がっちりと抱きしめられたままでは、ろくな謝罪もできない。

 戸惑いと混乱と恥ずかしさで身じろぐが、ますます強く抱きしめられて息もできない。
 苦しいと訴えどうにか放してもらうと、息も絶え絶えになったメリーベルの前で、ヴィクターがしょんぼりと肩を落とした。

「すまない」
「いえ。大丈夫です」

 顔を上げて目が合うと、二人同時に真っ赤になってしまう。それがなんだかおかしくて二人で吹き出してしまった。

「とりあえず中へ入りませんか? まだ修繕の途中でお見苦しい状態ですけど」
「あ、ああ」

 頷くヴィクターが、他にも誰かいるのかとキョロキョロするので、思わずふふっと笑ってしまう。まさかメリーベル一人で、家を修繕しているとは思わなかったのだろう。ギルの淹れてくれた茶を一緒に飲みつつそれを伝えると、目を真ん丸にして驚く彼がなんだか可愛く見えて、今度こそクスクス笑ってしまった。

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