契約結婚は終了しました
   ◆

 ギルが学校へ戻る二日前、家のおおまかな修繕が終わった。
 例の主寝室などの細かいところはおいおい直していくとしても、住むのに支障はないし、何ならギルが次回、友人を泊めるために連れて来ても大丈夫なくらいだ。

 そしてギルが学校へ戻る日――――。


「ヴィクター様、すみません」

 憧れの車でのドライブに大興奮だったギルが寮内に入るのを見届けた後、メリーベルはヴィクターに深々と頭を下げた。
 なぜか弟はヴィクターに車で送ってもらう約束をしていて、メリーベルも同乗することになってしまったのだ。

「いや。俺も楽しかったし」

 ヴィクターのはにかんだ笑みにドギマギする。
 帰りは助手席に座ることになったが、運転する彼の横顔を見るだけで胸が苦しくて仕方がなかった。
 家に着けば、これで本当にさよならだろう。
 ギルが寮に入る前に二人で何やらコソコソ話していたから、また帰省の折には遊びに来てくれるかもしれないけれど。あまり期待してはいけない。

 最後の時間を精一杯楽しもう。
 そう決めて流れる景色を見ていると、ふと既視感に襲われた。

「少し休憩しようか」

 ヴィクターが休憩に選んだ場所。
 それはメリーベルが幼い頃、母と養父と共に住んでいた小さな町だった。のどかな田園風景。川のほとりにある町の中央広場には市が立つ。
 昔、養父がメリーベルの目の前で母に求婚し、ギルが生まれてすぐの頃まで住んでいた、思い出の詰まった町だった。

 「懐かしい」と呟いたメリーベルの言葉に、ヴィクターがふんわりと微笑む。なぜか手を引かれて商店街をひやかして歩き、川を見下ろす土手まで来ると、ヴィクターは突然メリーベルの前で跪いた。
 それは過去に見た思い出を再現しているようで、メリーベルの心臓が大きく胸を叩いた。
 まさかと思う。でもメリーベルを見上げるヴィクターの真摯な瞳に魅せられていると、彼はポケットから出した小箱を開けて見せた。

「メリーベル。君を一生守りたい。どうかこの求婚を受けてくれないか」

 それはかつて見た養父の求婚の風景にそっくりだった。これは偶然?

「どうして……」

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