五年後の約束――ランドセルに揺れた、わたしたちの初恋
#1 砂場のゲイジュツ家
「うん。なかなか、いいかんじ」
園庭の砂場で、ブルーのスモックを着た男の子が立ち上がり、手をパンパンはたいて砂を払っている。砂を運ぶのに使っていたバケツを逆さまにして、ちょこんと座り、完成したばかりの作品を満足そうに眺めた。サラサラの黒髪が、時折吹く春風に揺れる。
確かに、砂でできた月面基地は、ドーム型できれいな球形。てっぺんには、マジックペンを差し込んだ望遠鏡もついていて、遠くの星も観測できるみたいだ。本格派だね。ドームの入り口には、おもちゃの車が横づけされていて、いつでも月面探査がOKだ。
グシャッ。
そこに大きな隕石が落下?
ドームがぺっちゃんこにつぶれ、その上には、大きな泥だんごが載っている。
男の子の頭の中は一瞬、真っ白になった。目を閉じ、恐る恐る目を開けてみても、完成したばかりのゲイジュツ作品が目の前で壊された事実は変わらなかった。
お日さまがさえぎられ、目の前に誰かが立っていることに気づく。
「よくできた『おそなえもち』ね。でもふつう、大きいおもちの上に、小さいおもちがのってるのよ。だからのせてあげたの。これでかんせいね」
声の主は、栗色の髪を赤いリボンで片結びにした女の子。両手をピンク色のスモックにパタパタとたたきつけ、濡れた砂を払っている。
男の子はバケツに、座っている。
赤いリボンの子は太陽を背に、立っている。
怒って文句を言いたかったみたいだけど、その女の子が大きく威張っているように見えたので、男の子はひるんじゃった。
ブルーのスモックの子がせいぜいできたことは、立ち上がってピンクのスモックの子を睨むだけ。
睨みながら観察すると、お日様が眩しいのか不機嫌なのか、細い眉と瞳の間が狭く、その表情がとてもお姉さんっぽく見えたみたい。
「あなた、こないだ入った、『いちねんほいく』の子でしょ。わたしは、ねんちょうの、ばらぐみよ」
その女の子は、なぜか自慢するみたいに胸を張る。そしてニッと笑った。
少なくとも不機嫌ではないみたい。
「わたしは、クミ。あなたは?」
「ぼ、ぼくは、ケン」
「ケン、か……よろしくね」
お昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り、クミと名乗った女の子は、まわれ右をした。
幼稚園の上空から眺めると、赤いリボンが揺れながら玄関に向かい、ブルーのスモック姿の子と潰れた月面基地とバケツが、砂場にそのまま取り残されていた。
それ以来。
クミは、ケンの姿を見つけると、必ずちょっかいを出してくるんだよ。
例えば……
ケンが園庭の花壇の前に座って、クレヨンでチューリップを描いていると、ケンのクレヨン箱から黄色と黒のクレヨンを抜き出し、大きなハチを描き加えたり。
ケンが廊下を歩いていると、クミは後からそっと忍びより、『わっ』驚かしたり。
イモ掘り遠足に出かけた時なんか……
ケンは大きなサツマイモを掘り当て、両手で高らかに掲げた。
クミはそれを取り上げ、自分が収穫した、かわいいイモをケンに持たせる。
ケンはつくづく思う。この子、自分のことはお姫様で、ぼくのことを家来か何かだと勘違いしてるんじゃないかと。
残念ながら、幼稚園にいる間は、お姫様と家来の関係が続くんだけどね。