ガロウ
第五章
 黒いセダンが幹線へ出る。
 ウインカーは遅い。
 だが進路変更に迷いはない。
 菜々緒が先に動いた。
 バイクが車列の隙間を、刃のように滑る。
「右、合流する」
 インカム越しの声は短い。
 マイクは即座に踏み込む。
 ジャガーの直列六気筒が静かに回転を上げる。
「距離は詰めるな」
「あいよ」
 村木はミラーを監視する。
「後続に白色SUV。一定距離で固定されています」
 車高高め。
 フロントグリル内に小型カメラ。
 アンテナ基部がルーフ後方に見える。
「覆面の可能性」
「断定は?」
「七割」
 黒いセダンが黄色信号を抜ける。
 無理はしていない。計算された加速。
 菜々緒も抜ける。
 マイクは減速せず、だが強引にも出ない。
 国道十七号。
 物流トラックの列。
 死角が増える。
「ABS域に入れるな」
「制動距離、確保しています」
 菜々緒がトラック二台分を抜く。
 一瞬、視界から消える。
 白いSUVが並走位置へ上がる。
 追い越さない。
 威圧もしない。
 ただ、横にいる。
「記録されています」
 村木。
「だろうな」
 セダンが側道へ入る。
 急ではない。
 だが意図的。
 菜々緒が即応。
 ジャガーも続く。
 路面が荒れる。
 継ぎ目の振動がハンドルへ伝わる。
 前方に黒のミニバン。
 減速。
「前方、進路を絞っています」
 偶然ではない。
 菜々緒が左へ抜ける。
 歩道寄り、わずかな空間。
 マイクは直進を選ぶ。
 ミニバンのブレーキランプ。
 わずかな緩み。
 ジャガーが滑り込む。
 接触なし。
「挟み込み未遂」
「了解」
 セダンは再び十七号へ戻る。
 白いSUVは追わない。
 代わりに一定距離を維持。
 圧だけを残す。
 セダンが突然、急制動。
 車列が波打つ。
 ABS作動。
 停止距離、ぎりぎり。
 助手席側の窓が開く。
 黒い物体が投げ出される。
 路面に転がる。
 ビニール袋。
「挙動から爆発物の可能性は低いと判断されます」
 落下挙動を見て、村木が判断する。
「視線誘導だ」
 菜々緒が回避。
 ジャガーも続く。
 袋はただ転がる。
 中身は重りだけ。
 その間にセダンが再加速。
 前方、二百メートル。
 信号が赤へ変わる。
 セダンは減速しない。
 横断車両が急停止。
 クラクション。
「行けるか」
「理論上は可能です」
 村木の声は平坦。
 マイクは即断する。
「止まる」
 ジャガー停止。
 菜々緒だけが抜ける。
 二輪の機動力。
 赤を越える。
 視界から消える。
 十五秒。
 長い。
 青。
 再発進。
 セダンは見えない。
 無線が戻る。
「ナンバー確認。前後一致」
「映像は」
「ドラレコ記録済み」
 呼吸は乱れていない。
「会社登録車両。ダミー法人」
 村木が即座に照合を始める。
「四時間の空白、埋まる可能性があります」
 夜風が強い。
 十七号の車列が流れる。
 白いSUVはいつの間にかいない。
 包囲は解けた。
 だが、意図は明白だった。
 警告。
 観測。
 牽制。
 マイクが言う。
「顔は見えた」
 村木がうなずく。
「はい」
 合法の枠内で、
 線の外側から圧をかけてくる。
 内部監査。
 四時間の空白。
 組織的妨害。
 偶然ではない。
 正しさの裏側が、
 動き出している。
 夜は、まだ浅い。
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