ただ君を愛したいだけ
その直後、ビーカインドとその会社の業務提携が発表された。

それを知り、智治さんに婚約について問いただすと、彼は唇を噛(か)みしめて『すまない』と私を突き放したのだ。

あのときのみじめで苦しい気持ちは、もう二度と味わいたくない。


「そう、ですか」


私は目をそらしてさらりと流した。

これまで陽菜を抱えてひとりでどれだけ大変だったか。

それでも、陽菜という宝物を授けてくれたことだけは感謝している。

子育てのために仕事のキャリアを手離したが、後悔はないと言いきれるほど陽菜が愛おしい。

陽菜は私の命。
陽菜の笑顔が見られるなら、泥水だって飲める。


「とにかく、なんとかしますから」
「この時間から、今日面倒見てくれるところなんて見つからないぞ」


彼は窓の外に視線を送って言う。

すでに空は茜(あかね)色に染まっており、時計を確認するともう十七時半。

土曜は十八時までにお迎えが必要なので、もう行かなくてはならない。


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