ただ君を愛したいだけ
「歌を歌ったの?」
「そうよ。いっちょだめだから、歌を歌っておしゃべりしたのー」


陽菜は智治さんと目を合わせてにっこり笑う。


「さすがにおじさんが一緒に入ったらまずいと思って。陽菜ちゃん、ひとりで入れるって言うんだけど、溺れたら危ないから」


智治さんの配慮に頭が下がった。

女の子だから一緒に入るのはまずいと気を使い、しかしひとりにするのも危なっかしくて、ドア越しに安全を確認し続けてくれたのだ。


「重ね重ね、本当に――」
「楽しかったよな」


私のお礼の言葉を遮った智治さんは、陽菜に優しく微笑みかける。


「うん、しゅごーく。今日もやろうね」


陽菜がたった一日でこんなになついた理由がわかった。


智治さんは目の前で私が車にはねられ、いきなり引き離されて恐怖におびえていた陽菜と、全力で向き合ってくれたのだ。

少しも手を抜くことなく。


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