月が青く染まる夜に
彼は一回声に出して「ふぅー」と深呼吸すると、ポケットから綺麗に折りたたまれたネイビーのハンカチを私に差し出してきた。
「紗菜さん。泣くの、反則」
「はい。ごめんなさい」
まだ温もりがあるそのハンカチを静かに受け取って、涙を拭く。
「いや、僕のせいか」
「だって、怒るかな、呆れるかな、嫌われるかなって、頭の中が大渋滞で」
「そんなこと、思うわけない────です」
受変電室の空気は、もう張りつめていない。
付け加えられたような“です”に、涙まじりに笑いがこぼれてしまった。
そこに、色が変わるような扉が開く音と、コツコツというヒールの足音が聞こえてきて、二人で顔を向ける。
「あ、お疲れ様ですー!」
場違いな明るい声で挨拶してきたのは、片桐さんだった。
私たちの空気を瞬時に察したのか、我に返ったように足を止めて小脇に抱えていたファイルで顔を覆う。
「ちょっと待って!今じゃないよね!登場しない方がよかったよね!」
「違います!」
かぶせ気味に否定すると、上から迅和くんの声が聞こえた。
「紗菜さん。まだ残ってる事務作業があるなら、そちらを優先してください。片桐……よろしく」
もう、彼が呼ぶ“片桐”に、胸はチクリとしなくなっていた。
片桐さんは指でマルを作ると、私の背中を抱いて
「と、いうことなんで。大事な話の続きは、こーんな小汚いところじゃなくて、ちゃんとゆっくりしたら?」
なんて冗談めかして言う。
「片桐さんっ」
必死の抵抗は、彼女には通用しないようだ。
「紗菜さん。泣くの、反則」
「はい。ごめんなさい」
まだ温もりがあるそのハンカチを静かに受け取って、涙を拭く。
「いや、僕のせいか」
「だって、怒るかな、呆れるかな、嫌われるかなって、頭の中が大渋滞で」
「そんなこと、思うわけない────です」
受変電室の空気は、もう張りつめていない。
付け加えられたような“です”に、涙まじりに笑いがこぼれてしまった。
そこに、色が変わるような扉が開く音と、コツコツというヒールの足音が聞こえてきて、二人で顔を向ける。
「あ、お疲れ様ですー!」
場違いな明るい声で挨拶してきたのは、片桐さんだった。
私たちの空気を瞬時に察したのか、我に返ったように足を止めて小脇に抱えていたファイルで顔を覆う。
「ちょっと待って!今じゃないよね!登場しない方がよかったよね!」
「違います!」
かぶせ気味に否定すると、上から迅和くんの声が聞こえた。
「紗菜さん。まだ残ってる事務作業があるなら、そちらを優先してください。片桐……よろしく」
もう、彼が呼ぶ“片桐”に、胸はチクリとしなくなっていた。
片桐さんは指でマルを作ると、私の背中を抱いて
「と、いうことなんで。大事な話の続きは、こーんな小汚いところじゃなくて、ちゃんとゆっくりしたら?」
なんて冗談めかして言う。
「片桐さんっ」
必死の抵抗は、彼女には通用しないようだ。