月が青く染まる夜に
「────迅和、昔からああなんです」

唐突だった。
私は思わず顔を上げる。きっと見られていることは分かった上で、片桐さんはあえて視線を交わらせることなく、一定の温度で話す。

「彼は、自分のことは後回し。工程優先。効率優先。倒れるまでやるタイプ。信号機が大好きすぎて、直接いじれる旭陽さんに転職しちゃうくらい、変わり者」

そう。それを教えてくれたのは、彼女以外のなにものでもない。

「その上、なにを考えてるのか分からないし、言葉も少ないし、とにかく仕事が大好きなのよ。……でもね、大切なものは、とことん大切にする」

視線がどこか遠くにあったのに、ふとこちらをまっすぐ見つめてきた。
その目に、競争の色はない。
というか、最初から競争など彼女はしていなかった。


「誤解されたまま終わるのも後味悪いので、言っておきますね。私と迅和は、……何もありません」

静かな声だった。

「仕事の相棒。それ以上でも以下でもない。彼はもともと桜華テックにいたから、元同期。それだけ」

さらりと言う。重たくしない。強調もしない。
ただ、事実として置く。

「……そう、なんですね」

情けないくらい、平坦な返事しか出なかった。

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