月が青く染まる夜に
ロビーの横を抜けて、客室棟へ向かう。
客室棟の廊下は、畳の匂いがした。

そこで、やっと迅和くんが口を開く。

「……紗菜さん」

名前を呼ばれて、それだけで胸がちょっと跳ねた。

「ごめんね。僕が────」

なにを謝るの、と困惑したものの、彼の目はさっきと変わらない温度。

歩く足が止まる。廊下の角。
少しだけ照明が落ちる場所だった。

「僕が、遅すぎた」

「なにが?」

「今日こそは、僕が頑張らないといけなかったのに」

視線が、真っ直ぐ。逃げない目。
その声は低くて、でもはっきりしている。

こういう時に嫌な質問を思い浮かべてしまうのだから、私はやっぱり意地悪だ。

「じゃあ聞くけど」と、前置きして見上げた。

「信号機と私、どっち取るの?」

迅和くんの眉がわずかに動く。

「なに、その究極の二択」

「だって迅和くん、頭のなか信号機だらけでしょ?」

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