月が青く染まる夜に
いつまでも黙っているので、彼は間違えたと思ったのか手を握り直してきた。

「もう少し時間をもらえたら、表現方法を変えて考えるから」

「ふふっ」

思わず、申し訳ないけれど笑ってしまった。

たぶん、顔が赤くなってしまっているので、ごまかしたくて抱きつく。

「ほんっとに、迅和くんて、ずるいんだから」

「そうかな」

そう言って、迅和くんの腕がしっかりと私の背中に回される。

逃げない。今度は、私も。


────そのまま、どちらも動かなかった。

畳の匂いが、ふわりと鼻をかすめる。
廊下の奥で、誰かの笑い声が小さく反響して、すぐに遠ざかった。

彼の胸に耳が触れて、鼓動が伝わる。
私のものと、たぶん同じ速さ。

ほんの数秒が、やけに長い。
顔を上げると、視線が合う。
さっき足湯で見た目と同じ、迷いのない目。
逃げる理由が、どこにも見つからない。

静かに、唇が重なる。
さっきよりも穏やかで、でも確かに熱を持っている。

確かめるみたいに、ゆっくり。
言葉の代わりに、選ぶみたいに。


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