月が青く染まる夜に
悔しいような、でも嬉しいような、入り乱れた心がそのまま顔に出ていたらしい。

ずっと笑っている彼の肩を「もう!」と苦し紛れに叩いて、さっき倉庫から持ってきてくれたお茶をテーブルに並べようとカゴを持ち上げる。

「一緒にやるよ」

とあっという間にカゴを奪われてしまい、ふたりでお茶を並べていく。

最後のお茶を手に取った時に、空っぽになったカゴを置いた迅和くんが「さっきみたいに」と、こちらを見た。

「ちゃんと“助けて”って言ってくれるのは、嬉しい」


ここで、私はもう限界。

「再起動お願いします。私の。原因は、迅和くんのせいだからね」

はぁぁぁ、と行き場のない、これ以上ないほどの感情を込めた、深いため息をついてしまった。
顔を覆って、彼には絶対見られたくない表情だ。

さぞや笑われるだろうと思っていたけれど、

「あのさ、僕だって…」

と、彼がなにか言いかけているのが分かった。

「…なに?」

覆った手のひらの隙間から、彼の一瞬の揺れを感じ取る。

いつもの落ち着いた顔じゃない。
何かを選びかけて、飲み込んだ顔。
彼の空気の変化だけは、強く感じた。


迅和くんは、ほんのわずかに息を吐く。

「いや」

小さく首を振る。

「会議前だし」

「いいよ、言って。なんでも言ってよ」

私はだいぶ口にしてるのに。
顔に今の感情が全部乗ってしまうというのに。


しかし、タイミングがいいのか悪いのか廊下から足音が近づいてきた。
他部署の人が入ってくる気配。

迅和くんは一歩下がって、いつもの距離に戻ってしまった。
でも戻りきっていない温度だけが、そこに残る。

「じゃあ、よろしくね」

さっきまであんなに近かったのに。
急に、仕事の顔。


彼のおかげで、会議は無事に始まりそうだ。
でもさっきの数分のほうが、よっぽど心拍数は高かった。


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