月が青く染まる夜に
「あれ?」

迅和くんがコートを椅子にかけたところで、笹原さんが指でなにかを示す。

「なんかついてるよ」

肩口。黒いウールの上に、ふわりと白。

一本じゃない。
見覚えしかない毛。
────ちくわ。

笹原さんの肩越しに、迅和くんの目が私に一瞬向けられた。
血の気が引くというより、もろに顔に熱が集まる。


迅和くんがコートを見下ろす。

「あー…」

その声が、あまりにも素直。


払うかと思った。でも、払わない。
指先が一瞬だけ動いて、止まる。

笹原さんが、口元を緩めた。

「ガガ様じゃないよね?」

「違います」

潔い即答。

「ずいぶん白いなあ。シャーされた?」

「まあ、はい。だいぶ。完全に敵認定されました」

その言い方。

コピー機を直しながら、私は思わず視線を落とす。
…敵認定。
それは間違っていない。


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