月が青く染まる夜に
笹原さんがとても楽しそうに笑った。
からかうでもなく、誰となのか詮索することもなく。

「なるほど。そういうことか」

と、それ以上は踏み込まない言葉。

「はい。そういうことです」

「覚悟しておけよ。俺はまだシャーシャーされてる」

「いつ頃、許されます?」

「大丈夫だ。もう半年以上、許されてない」

間を置くことなく、迅和くんが真顔で私に視線を送ってきた。

「さすがに半年は…」

口を挟むつもりは絶対になかったのに、思わず声が漏れてしまった。
顔が真っ赤になっているのは、自覚した。

笹原さんの、悟った表情。

「いいね。営業部に回覧しとく?」

「「やめてください」」

ぴたりと揃う否定。
思わず、笑いそうになる。


笹原さんは去り際に、軽く言った。

「ちゃんと認めたなら、堂々としてなさい」

“認めた”。その言葉が、静かに落ちる。

迅和くんはまだ、毛を払わない。

「ブラッシング、ちゃんとしておくから」

いたたまれなくなって、私が代わりに彼のコートからちくわの毛をつまみとった。
わざとじゃないふりをしているけど、きっとわざとだ。


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