月が青く染まる夜に
いたって普通の温度で話を戻すものだから、あっという間に迅和くんのいつもの世界観に落ち着いてしまった。
「ううん。会社に戻る。服、着替えなきゃだし。靴も取り替えたいし」
普段足を通すことなどない、安全靴を見下ろす。
反射ベストも、朝より砂っぽくなっている。
彼も自分の作業員についた砂が気になったのか、手で払いながらホワイトボードへ目を向ける。
朝と今とで、全然違う流れになったものの、とりあえずはひと段落といったところだ。
「正直、工程表があんなに崩れた時点でもう終わった、って思ってたんです、朝は。だから紗菜さんが整えてくれて、助かりました」
「…最初から褒めてくれたらよかったのに」
私は缶の縁を指でなぞった。
茶化すようなことを言うタイプには見えなかったが、彼はちゃんとそういうスキルも持ち合わせているようだ。
「意地悪ですみません」
「いいよ、もう。なんか迅和くんのキャラが不思議なんだってことは、よーく分かったから」
「僕は普通です」
「どこが?」
この返しには、彼は答えなかった。
「紗菜さん、間もなく帰りますよ。支度してください」
「はーい」
「明日も僕は現場なので。明日の工程の最終チェックだけ一緒にお願いします」
よいしょ、と立ち上がって記憶の片隅を辿る。
そういえば、これまでも迅和くんが事務所にいない日なんて、たまにあったのかな。どうだったかな。
こんな風に総務の人間が現場に行くことがあまりないということも相まって、彼の存在は薄かった。
気に留めたことなどなかった。
こうして時々、作業着を着ているんだと知った。
骨組みをしっかり作り上げて、技術的なこともしているのだ。
おそらく、知らないことだらけだろう。
飲みかけのココアとタブレットを手に持つ。
テントを出ると、風がひと息、テントの布を揺らす。
安全テープがぱたぱたと鳴る。
夕闇がゆっくり降りてくる中、私たちは同じ方向へ歩き出した。
「ううん。会社に戻る。服、着替えなきゃだし。靴も取り替えたいし」
普段足を通すことなどない、安全靴を見下ろす。
反射ベストも、朝より砂っぽくなっている。
彼も自分の作業員についた砂が気になったのか、手で払いながらホワイトボードへ目を向ける。
朝と今とで、全然違う流れになったものの、とりあえずはひと段落といったところだ。
「正直、工程表があんなに崩れた時点でもう終わった、って思ってたんです、朝は。だから紗菜さんが整えてくれて、助かりました」
「…最初から褒めてくれたらよかったのに」
私は缶の縁を指でなぞった。
茶化すようなことを言うタイプには見えなかったが、彼はちゃんとそういうスキルも持ち合わせているようだ。
「意地悪ですみません」
「いいよ、もう。なんか迅和くんのキャラが不思議なんだってことは、よーく分かったから」
「僕は普通です」
「どこが?」
この返しには、彼は答えなかった。
「紗菜さん、間もなく帰りますよ。支度してください」
「はーい」
「明日も僕は現場なので。明日の工程の最終チェックだけ一緒にお願いします」
よいしょ、と立ち上がって記憶の片隅を辿る。
そういえば、これまでも迅和くんが事務所にいない日なんて、たまにあったのかな。どうだったかな。
こんな風に総務の人間が現場に行くことがあまりないということも相まって、彼の存在は薄かった。
気に留めたことなどなかった。
こうして時々、作業着を着ているんだと知った。
骨組みをしっかり作り上げて、技術的なこともしているのだ。
おそらく、知らないことだらけだろう。
飲みかけのココアとタブレットを手に持つ。
テントを出ると、風がひと息、テントの布を揺らす。
安全テープがぱたぱたと鳴る。
夕闇がゆっくり降りてくる中、私たちは同じ方向へ歩き出した。