月が青く染まる夜に
否定しようとした矢先、私のスマホがピロンと鳴った。

画面を見る。仕事の通知かと思いきや。
思わず小さく声が漏れる。

「うわぁ!」

慌てて口を閉じるが、時すでに遅し。
むき出しの好奇心で、真奈美さんが身を乗り出してきた。

「今の“うわぁ!”は“嫌なうわぁ!”じゃない。見せなさい!!」

「絶対見せない!」

椅子ごと体をひねる私。
真奈美さんは机をバンッと叩く。

「角度!角度だけ教えなさい!」

「だから知らないですって!」


トイレに立ったのか一服するために立ったのか、道すがらのサラリーマンたちがこちらを見る。
気まずい。気まずすぎる。

私は思わず小声で本音をこぼした。

「ただ…ちょっと嬉しかっただけです」


一瞬の、間。

そして真奈美さんが静かにグラスを掲げた。
なんだか、すべてを悟ったような顔で。

「じゃあ乾杯しよ。紗菜ちゃんの“ちょっと嬉しい”に」

差し出されたジョッキに、私もおそるおそる自分のジョッキを出す。
やや強引にあちらからぶつけられた。


泡が弾ける。焼き鳥の煙が揺れる。
私は笑いながら、でも胸の奥がじんわりあたたかい。

まだ恋じゃない。いや、恋かもしれない。
でも、ただの同僚でもない。
そんな場所に、私は立っている。


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