月が青く染まる夜に
私は小声でこぼした。

「でも…ただ優しかっただけかもしれないし」

真奈美さんは串をトントンと皿に打ちつけて、急に真顔。

「ねえ。優しさって“ただ”じゃないのよ。選んでやってるの」

乱雑に置いた真奈美さんのジョッキが、焼き鳥のお皿にぶつかりカチン、と鳴る。


「それにさ、紗菜ちゃん。彼、コピー機直したときの指、見てた?」

「見てましたけど…」

「めちゃくちゃ丁寧だったでしょう?」

そう言われて、私は思い出す。

コピー機の側面をそっと撫でた手。
ランプが緑に変わった瞬間の、ほんの一息。

「…まあ、あれは…ちょっとずるい」

「ほら!認めた!」

彼女は勝ち誇ったようにビールを一口。

「認めたってわけでは…」


< 40 / 164 >

この作品をシェア

pagetop