扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
折りしも大寒波が押し寄せてきていて、冷たい雨は今にも雪に変わりそうだ。
週末は引き篭もってゆっくり過ごうか。
ああ、そろそろ掃除もしないといけない。
売り場を抜けて、私鉄の改札へと向かう。
「雪まじりになってきたね!」と、すれ違った学生があげた声に、凛子はなんとなくストールに首をうずめ、パスケースを探ろうとカバンを持ち直そうとした時だった。
立ちくらみにも似た感覚。
ぐらりと揺れた視界が真っ白になる。
「………………………………」
どのくらい、呆然としていたのか判らない。
目の前に広がる光景は、白、白、白。
うなる風がコートの裾を翻す。頬を絶え間なく濡らす氷の結晶。横殴りに降る――降ると言う表現が正しいのかは判らないが――雪をみるのは、初めてである。
行き交う人は、みな一様に雪嵐から逃れるよう体を縮こませている。誰かの体がぶつかり、凛子はふらつく。視線の合った人物は、謝るように小さく頭を下げた。気にするな、と微笑もうとしたのだが、寒さで強張った表情はうまく動かせない。それでも最初の一歩を踏み出すと、石畳にブーツのヒールがひっかかり、凛子は妙な体制で動きを止めた。
――石畳。
足元は駅構内の無機質な床ではない。ぎくしゃくと左右を確認すると、判然としない視界の中で、三角屋根が可愛らしいビクトリア風の建物が並んでいるのが見える。こんな悪天候にも関わらず、だぼっとした防寒着を身に着けた人通りは急ぎ足だがそこそこある。
がらがらと横を通り過ぎる荷馬車の音に驚いた凛子は、慌てて道を譲る。先へ行く馬車を目で追うと、一瞬だけ弱まった風の中、白灰色の空へと突き抜ける尖塔が見えた。
高らかに鳴り響く鐘の音に続いて、切りつける突風。
「ええええええええええええええ」
そうして凛子はようやく、驚愕をのせた声をあげた。
◇◇◇
とりあえず寒い。寒いなんて生易しい物じゃない。
冷えた空気は肌を切りつけるような痛みをもたらす。
此処が何処なのかは判らないが、つい先ほどまで自分が居た駅では無いことだけは確かである。何が起こった?……までを考える余裕は無く、吹雪く世界に向け凛子はともかく歩き出した。
石畳に積もりゆく雪で、足元はかなり不安定だ。二度ほどすっころんでしまった。たまりかねて近くにあった建物に飛び込み、凛子はそっと溜息を吐く。皮製のブーツの爪先は濡れてしまったようで冷たい。
室温で解けた雪がぽたぽたと雫になる。店内で何かの作業をしていた女と目が合い、凛子は曖昧に微笑む。何か話しかけられたのだが、言葉が判らなかった。返事をせず愛想笑いを浮かべている凛子に、多少の警戒の色を見せながら、女が近づいてくる。
また何かを話しかけられ、凛子は観念したように「すいません」と頭をさげた。