扉の向こうの王子様~終電帰りの限界社畜OL、玄関のドアを開けたら異世界と繋がっていました
明けて翌朝。
ザルを通り越してワクである凛子の胃腸および肝臓は、二日酔いという言葉を未だに知らない。
パンとスープと卵料理らしき朝食を済ませると、エイゼルが女主人に何かを告げた。
店の奥にひっこんだリラが足首まである防寒着を持ってき、それを凛子に着付ける。促されるまま店の外へ出ると、エイゼルが凛子の頭にフードをばさりと被せた。
はらはら舞い散る雪は止む気配が無い。
街の光景は物珍しく、凛子は興味深げに左右に視線を配りつつ、エイゼルに並び歩いていた。
石畳が続き、木造の家々が路の両側に立ち並んでいる。この付近は商家が多いのか、看板に何の商いをしているかを指す、イラストのような物が板看板に彫られている。
お世話になっている宿は、酒瓶と杯らしきものが描かれている看板が下がっていた。
剣と盾。
鍵モチーフの意匠。
コインが二つ並んでいる物。
酒瓶だけが描かれている物と、あの宿のものとの違いは不明だ。
隣を歩いていたエイゼルがすっと腕を上げて前を指し示した。
昨日も白い世界に薄っすらと見えた尖塔である。
近づくと三つの尖塔をもつカテドラルのような建物が、開けた広場に面していた。
街の木造家屋とは違い、石造りの重厚な建造物で、左右対称に配置されてある尖塔の間に聖堂らしき建造物があり、裏手に一際高い尖塔が聳えている。
石段をあがり両開きの扉を押して中に入ると、中央奥には祭壇がある。
高い天井の両脇と祭壇後部にはステンドグラスが配置され、神聖かつ静謐な静けさが広がっていた。
両側に配置されてある長椅子はまばらに人が座っている。
手を組み祈っている姿は、あちらの世界と差異が無いような気がした。
中央の通路を歩き祭壇へと近寄ってみる。司祭らしき人物はそこには居らず、右手を天に向かって伸ばしている白い石造が祭壇の後ろに設置されてある。
白い神像の左手に、狼に似た黒い獣の像。
口には剣をくわえており、利口そうな顔つきで神像を見上げていた。
獣の像の方に近寄り、エイゼルが剣の柄あたりを指差した。
五つの石がはめ込まれている。
上からトパーズ、真珠、サファイヤ、エメラルド、オニキスといった具合で、なかなか高価そうだ。
そのうち真ん中の青を指しながら「シャアル」と、発した。
「しャール?」
「そう、これがシャアル。 蒼水晶は古語でシャアルというから」
「ん? しャール?」
「そう、シャアル」
エイゼルは青い石を指差しながら頷く。
「えっと……もしかして……それをシャールって言うの、かな……?」
嫌な予感を覚えながら疑問を口にすると、エイゼルは「そうだよ」とでも言うように、またシャアルと繰り返した。
思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
よくよく考えるとありえない話じゃない。
凛子の凛ひとつとっても、発音だけなら意味が分かれる。
凛としたの凛。風鈴の鈴。隣人の隣。竜胆の竜。
それを前提とすると、ここでのシャールも名前とは限らない。
恐らくサファイヤに似た石をシャールというのだ。
「シャール、シャール……シャ……シュール? 違うな……シェリー……はお酒だし……しゅりえる……しゅれいる……駄目だ忘れた……メモっとけば良かった……」
シャールに会えればどうにかなるでしょ、と安易に考えていたのだが、会うどころの話ではない。
言葉も通じない異世界で、シャールを探す事なんて出来るのだろうか。
一気に途方にくれ、凛子は絶望を背負い肩を落とした。
ザルを通り越してワクである凛子の胃腸および肝臓は、二日酔いという言葉を未だに知らない。
パンとスープと卵料理らしき朝食を済ませると、エイゼルが女主人に何かを告げた。
店の奥にひっこんだリラが足首まである防寒着を持ってき、それを凛子に着付ける。促されるまま店の外へ出ると、エイゼルが凛子の頭にフードをばさりと被せた。
はらはら舞い散る雪は止む気配が無い。
街の光景は物珍しく、凛子は興味深げに左右に視線を配りつつ、エイゼルに並び歩いていた。
石畳が続き、木造の家々が路の両側に立ち並んでいる。この付近は商家が多いのか、看板に何の商いをしているかを指す、イラストのような物が板看板に彫られている。
お世話になっている宿は、酒瓶と杯らしきものが描かれている看板が下がっていた。
剣と盾。
鍵モチーフの意匠。
コインが二つ並んでいる物。
酒瓶だけが描かれている物と、あの宿のものとの違いは不明だ。
隣を歩いていたエイゼルがすっと腕を上げて前を指し示した。
昨日も白い世界に薄っすらと見えた尖塔である。
近づくと三つの尖塔をもつカテドラルのような建物が、開けた広場に面していた。
街の木造家屋とは違い、石造りの重厚な建造物で、左右対称に配置されてある尖塔の間に聖堂らしき建造物があり、裏手に一際高い尖塔が聳えている。
石段をあがり両開きの扉を押して中に入ると、中央奥には祭壇がある。
高い天井の両脇と祭壇後部にはステンドグラスが配置され、神聖かつ静謐な静けさが広がっていた。
両側に配置されてある長椅子はまばらに人が座っている。
手を組み祈っている姿は、あちらの世界と差異が無いような気がした。
中央の通路を歩き祭壇へと近寄ってみる。司祭らしき人物はそこには居らず、右手を天に向かって伸ばしている白い石造が祭壇の後ろに設置されてある。
白い神像の左手に、狼に似た黒い獣の像。
口には剣をくわえており、利口そうな顔つきで神像を見上げていた。
獣の像の方に近寄り、エイゼルが剣の柄あたりを指差した。
五つの石がはめ込まれている。
上からトパーズ、真珠、サファイヤ、エメラルド、オニキスといった具合で、なかなか高価そうだ。
そのうち真ん中の青を指しながら「シャアル」と、発した。
「しャール?」
「そう、これがシャアル。 蒼水晶は古語でシャアルというから」
「ん? しャール?」
「そう、シャアル」
エイゼルは青い石を指差しながら頷く。
「えっと……もしかして……それをシャールって言うの、かな……?」
嫌な予感を覚えながら疑問を口にすると、エイゼルは「そうだよ」とでも言うように、またシャアルと繰り返した。
思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
よくよく考えるとありえない話じゃない。
凛子の凛ひとつとっても、発音だけなら意味が分かれる。
凛としたの凛。風鈴の鈴。隣人の隣。竜胆の竜。
それを前提とすると、ここでのシャールも名前とは限らない。
恐らくサファイヤに似た石をシャールというのだ。
「シャール、シャール……シャ……シュール? 違うな……シェリー……はお酒だし……しゅりえる……しゅれいる……駄目だ忘れた……メモっとけば良かった……」
シャールに会えればどうにかなるでしょ、と安易に考えていたのだが、会うどころの話ではない。
言葉も通じない異世界で、シャールを探す事なんて出来るのだろうか。
一気に途方にくれ、凛子は絶望を背負い肩を落とした。