2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
◇◇◇
この部屋を訪れるたび、エイゼルはなんだか居た堪れない気分になる。
サルスェ司教であるサーシャの部屋とも似た雰囲気だが、纏わりつく空気はもっと陰鬱で重たい。
思案するように目を伏せている黒き賢者を伺っていると、静寂を破るよう朗らかな笑い声があがった。
目を眇めたラストゥーリャと視線が合ってしまい、エイゼルは教師に叱られる様な学徒の気分を味わいながら背筋を正した。
「暇なら他所に行ってください」
冷たく言い放ち、ラストゥーリャは少々乱暴な手つきで筆を走らせる。
「幼馴染に随分冷たい言い方だと思わない?」
エイゼルの肩に手をかけ甘さを含んだ笑みを浮かべたのは、アゼリアス聖王国の第三王子。
聖王庁――リアス聖教会の総本山――の長。
大司祭のディエルである。
「サーシャからの恋文は、僕も興味あるんだけどな」
「……申し訳ありません」
なぜ、自分が謝るのかは、いささか不明だが、エイゼルは素直に謝罪の言葉を口にする。
サーシャからの書簡は、あくまでも私的なものであり、常にラストゥーリャ宛である。
恐らく、黒き賢者が内容を取りまとめ、大司祭に話を持っていき、そこから政治分野の一端を担っている、彼の兄弟達へと伝わるのだろうが。
と、もったいつけたような図式を頭に思い浮かべる。
しかし宗教は政治に介入しないという体制を取るアゼリアス聖王国では、そこそこに順当な経路だ。
「エイゼルが謝る必要ないじゃない。ただ僕もたまにはサーシャと文通したいなって」
名前を知っていたのか、とエイゼルは僅かに目を見張る。
無言の問いを解したのか、ディエルは口の端をやや持ち上げる。
「サーシャの尻尾を切っちゃったのは後にも先にも君くらいだよ」
「そんな事まで……ご存知でしたか」
「あれは実に痛快だった! 僕も気になっていたんだ。何故、一部分だけ髪が編まれているのか」
「理由までは、知りませんけど」
「トゥーリャには心当たりがあるみたいだよ」
と、ぞんざいに顎で示された黒き賢者は頬をひくつかせる。
「ですから、邪魔をするならお帰りください。のちほどお話しに参ります」
「その必要はないよ。丁度、お茶でもしようと思っていた所なんだ」
さっとディエルが左手をあげる。
それを合図に、控えていた侍女たちが、執務机の真後ろ、薔薇窓に面する位置に円卓を運び込むと、手早くセッティングしていく。
円卓持参のお茶会……。
すっかり気の抜けたエイゼルは、何故自分がこの面子と膝を突き合わせているのかまで、考えが届かない。
彼が我に返って「らすとーりゃ」の名を呼び、黒き賢者と同様に見事な漆黒色を持つ娘に関して、茶会の席でようやく話題が登った頃、
当人は、
べぇええええれええええぇえええええええええ
べぇええええれええええぇえええええええええ
「ベレーって、べれぇええって鳴くからベレーなんだ……! っていうか豚じゃないんだ!」と感動しながら、犀に似た動物の乳を慣れない手つきで搾っていた。