どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです

1.目が覚めると

 朝、目が覚めたら猫になっていた。
 嘘みたいだけれど本当だ。

 果たしてこれは夢だろうかと頬をつねろうとしたら、そこにぷにっとした肉球があった。振り返れば、真っ黒なかぎしっぽが揺れている。

 昨日ベッドに入った時には、確かにわたしは人間だったはずなのに。これはどういうことだろう。

 無意識にひげがぴん、となる。何か魔法にかけられていることだけは分かる。

 問題は、誰にかけられたのかということだ。こんな、ほとんど呪いに近い魔法、うっかり食らうなんて魔女の名折れだ。これでももう三百年は生きているのに。

 ――どうしたもんかな。

 そう呟いたら、自分の口から間の抜けた「にゃー」という声が出た。こんなところまで、完璧に猫らしい。これでは事情を説明することもままならない。

 諦めて寝台に寝転がったところで、快活な声がした。
 間違いない、ジャックだ。

「せんせー、いますー?」

 ほどなくして声の主も現れて、一つに結わえた金髪が揺れる。澄んだ青の瞳が寝台の上に向けられた。

「ああもう、また脱ぎっぱなしにして」

 形のいい眉をひそめてジャックは寝台の上のネグリジェ――昨日の夜にわたしが着ていたもの――を見た。

 普段散らかしているのは確かだけれど、これはそうではない。猫になったからするりと脱げてしまったのだ。

「ん?」

 寝台から落ちそうなブランケットを直して、ネグリジェを畳む。そうしたところで、ジャックの目が黒猫の姿をしたわたしに向けられた。

「せんせい、猫なんか飼ってたかな? 新しい使い魔かなんかか」

 その声は随分と低くなった。けれど、わたしを呼ぶ時の舌足らずさだけが変わらない。
 あと飼ってません。本人です。
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