どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです
 ジャックは一度振り切るように大きく頭を振った。そのままわたしの背中に手を回す。

「大丈夫ですよ」

 広い胸に抱き込まれて、額が鎖骨に触れる。子供をあやすように、何度もとん、と背中を叩かれる。そういえば、昔はよくこうやって泣き止まないジャックをあやしていた。

「何にも怖いことなんてないですから、ね」

 布越しに感じる大きな手。引っ付いた内側からやさしい声がする。
 どのぐらいの間そうしていただろう。わたしの涙やっと引っ込んだのを確認して、ジャックが言った。

「おれを番にしてくれませんか」

 一瞬、ジャックが何を言ったのか分からなかった。
 けれど目の前にある青い瞳は真剣でとても冗談のようには聞こえない。

 何より、あの指輪にはまった青い石。

「そのために、用意したんです。おれの魔力じゃこんな小さな魔石にしかならなかったけど」

 魔力を結晶化させたものを魔石という。これはこのまま、彼の想いの形だろう。

「番なんて、どうして知ってるの」

 訊ねるとジャックは得意げに微笑んでみせる。

「そりゃあ、弟子ですから。せんせいの書庫で調べましたよ」

 まさしくしてやったりといった顔である。
 確かにわたしの書庫にはそんな本もあったような気はするけど。

「番になれば、おれもせんせいと同じように生きられるんですよね?」

 魔女が唯一と定めた伴侶、それが番。その魔力を分け与えるから、番は種族としての寿命を超える。それは一見ひどく都合がよく見える。

「だめよ」
「なんで、ですか」

 ジャックの声が悲痛に掠れる。

「おれじゃだめですか? 十八の子供じゃ、先生には釣り合いませんか?」

「あなたは何も分かってないわ」

 番なんかしてしまったら、人間としての輪廻の輪からは外れる。本当にもう、戻れなくなる。
 そんなことのためにわたしはジャックを助けたんじゃない。

「これからも、人間として色んなことがあるでしょう。あなたはまだ子供なんだもの」

 そうだ、ジャックは何にでもなれる。
 わたしは偶然ずっと、ジャックのそばにいた。だからジャックはわたししか見てこなかった。

「わたし以外の女にだって沢山出会うわ」

 そうすれば、こんなやたらと長く生きただけの魔女の存在なんて霞んでしまうに違いない。
 続く言葉を遮ったのは、苛立ちを含んだジャックの声だった。

「はあ?」

 ジャックの声がばかみたいに裏返った。そのまま不機嫌そうにそっぽを向く。
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