どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです

8.あなたのいない世界なら

「おれは、せんせい以外の女なんてじゃがいもにしか見えませんけど」
「そう、じゃがいもは剥いたらおいしく食べられるわよ。一度試してみたらいいわ」

「どうしてそうなるんですか!」

 ぐっと肩を掴まれる。今度はもっと乱暴に、強くその胸に抱き込まれた。

「分かってないのは、せんせいのほうでしょ」

 聞いたこともない低い声に囁かれて、そのまま顎に手をかけられる。有無を言わさぬ強さで見つめ合わされた。
 静かな熱を湛えた青。涼やかさの向こうに燃える炎がある。

「ジャック……」
 これから彼が何をしようとしているかは、すぐに分かった。

「本当にいやなら、叩くなり魔法を使うなりしてください。それなら、おれも諦めます」

 それだけを告げて、頬に手が添えられる。ジャックは長いまつ毛をそっと伏せた。
 指先が、微かに震えていた。
 そのままゆっくりと、わたしの唇に唇を重ねてきた。

 最初は触れるだけ。
 焦れったくなるほどのやわらかさが、乞うように何度も触れた。けれど隙をついたように肉厚の舌が入り込んでくる。

「……っぁ」

 上顎を撫ぜられれば痺れるような悦楽が生まれてくる。互いの境界線が曖昧になる。混ざりあって、溶け合ってひとつになる。

 もっと、この官能に浸っていたい。

 いつの間にか、ねだるように舌を絡めていたのはわたしの方だった。

「おれのこと、きらいですか」

 真剣な顔でジャックが問うてくる。もう決して、はぐらかすことも誤魔化すことも許さない必死さで。

 血が上った頬が熱い。これではどんな声できらいだと言ってもなんの意味もないだろう。それぐらいわたしはジャックに溺れていたのだから。

「……わたしのために人間をやめて、だなんて言えないわ」

 逃れるように上掛けに顔を埋めた。聞こえてくるのは、くぐもった自分の声。

「なんだ、そんなことか」
 頭の上から安堵のため息が降ってきた。

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