どうやら飼い慣らされていたのは、わたしの方だったようです
「へっ」

 弾かれたように顔を上げれば、ひどく嬉しそうにジャックは微笑む。

「だって、おれのこと好みじゃないとか百年前に死んだ男が忘れられないとかじゃないんでしょ? じゃあ、いいじゃないですか」

 どこか華やいだような声でジャックが言う。よくない、全然よくはない。

「あのね、せんせい」

 頭にそっと手が下りてきた。大きな手は、ゆっくりと愛おし気にわたしの髪を梳いていった。

「元々、せんせいがいなかったらおれは多分あの時死んでたんだ。だから、人でなくなることなんて、何にも怖くないんですよ」

 澄んだ光が青い瞳に揺れている。まるではじめて会う男のようだった。

「今ここにいるおれを、あなたが一から作ってくれた」

 きっと現実から目を背けていたから、分からなかった。
 
「だから、あなたがいない世界なら、おれはいらない」

 わたしは一体、今まで何を見てきたのだろう。
 
「これでもまだ、子供だって言いますか」

 わたしはもう、彼に追い越されていたのかもしれない。わたしの不安もためらいも、ジャックは全部お見通しだったのだ。

 けれど、これから先を強請る語彙はわたしにはない。魅了の魔法も、あまりうまくは使えない。

 だからこう言うのが精いっぱいだった。

「それ、はめてくれる?」

 おずおずと手を差し出したら、男は恭しくこの手を取った。「喜んで」
 そっと薬指に口づけて、それからするりと指輪がはめられる。

 よく見れば、魔石は少し歪なところがある。けれど手元で輝くその青い石は、今まで目にしたどんな宝石よりも美しく見えた。
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