破断直後のEt cetera

 大路(おおじ)家には、大事な跡取りが存在する。

私の兄であり、この家の長男である大路文哉(おおじふみや)、30才。詩太(うた)さんと同い年だ。

兄は株式会社オージスの跡取りとはいえ、今はアメリカの大手医薬品メーカーで一からビジネスを学んでいる。

「それで、大事な話しとは一体なんなの?」

 痺れを切らしたお母さんが、お父さんに緑茶の鵜呑みを差し出し言った。

小松さんも含め、4人でソファに座ったところで、お父さんが静かに話し始めた。

「実はな――――」     



◇◇◆
 
 
 それから一週間後。新聞には株式会社オージスの記事が取り上げられていた。

『株式会社オージス 新事業参入へ前進』

 あの日の夜、お父さんから言われた“大事な話”とはこのことだったのだ。

兄がアメリカの医薬品メーカーに就職し、修行しているのはこのためだったのかもしれない。

 株式会社オージスは、これまで調剤薬局を展開する企業として名を上げてきたが、薬価の引き下げや、調剤併設型ドラッグストアの拡大もあって、経営の存続がかかっていた。

そこでお父さんは、ジェネリック医薬品を取り入れる計画を前々から企てていたのだ。    

兄が働く、アメリカの大手医薬品メーカーと手を組むことが決まった。  

 でも本題は、私についてのことだった。

『もう十二村(とにむら)製薬とのパイプラインを意識する必要はない。未怜、もし詩太君と婚約を破棄したいなら破棄してもいいからな。』 
         
 お父さんの言葉に、お母さんは涙ぐんでいた。

私の結婚が、恋愛が。自由に選択できる権利が得られたのだ。 
  
確かに、お父さんの会社がジェネリック医薬品への参入となれば、わざわざ私が十二村部長と結婚する必要もない。

 でも私はすぐに『破棄する』とは言えなかった。

吉香と飲んだ帰り道、部長は女性と腕を組み、仲良くラブホ街に足を踏み入れる様子をこの目で見ているというのに。

本当にここで破棄してしまえば、もう私と部長との繋がりはなくなってしまう。

自分の中では答えが出ていたはずなのに、いざとなればなかなか断ち切ることができなかった。 

(一度、部長と話し合ってみた方がいいのかな……)

 そうは言っても、そんな機会がどこにあるというの?



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