【4/5書籍発売】悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「本当に? やだ、結構うまくやってると思ってたけど」
 「安心して。みんなは騙されてた」

 消毒、軟膏。淡々と進めながら、私たちの心の距離が少しずつ近づいていく。

 「やっぱりそうよね? 特にイレーヌ様とか」
 「もう……性格悪いわよ」

 この期に及んでクスクスと意地悪そうに笑うヴェロニカに呆れてしまう。

 「大嫌いだったわあの女。自分の手を汚さずお高くとまって。絶対引きずりおろしてやろうって思ってた」
 「それで、満足したの?」

 私が問うと、ヴェロニカは「うーん」と難しい顔で考え込んだ。

 「全然。だけどもういいわ。これ以上は時間の無駄」

 残念ながら頬の傷は痕としてずっと残ってしまうだろう。
 それでも彼女の表情に暗さはない。
 むしろ従順なフリでイレーヌに付き従っていた時よりずっと生き生きとして見える。

 彼女が悟った通り、こんな不毛な権力争いにこだわっていたら、いつか後悔する日がきていただろう。

 「そうね。それがいいと思う」
 「……やっぱあんたって嫌な女……ふふっ」
 「あはっ」

 鼻白んだように言った後で、ヴェロニカが笑うのでつられてしまった。

 最後に新しいガーゼを貼り付けて、端を指先で撫でて落ち着かせた。

 「はい、終わり。強くこすらないでね」
 「……ありがと」

 小さく、だけど今度ははっきりと聞こえた。ぶっきらぼうな声でも、その一言が嬉しい。

 「後宮で蹴落とし合いは当然だし、あんたにも悪いことしたとは思ってないから」

 立ち上がってヴェロニカが言う。
 言葉は棘を残しているけれど、覇気はない。

 彼女がイレーヌと和解したとしても、もう前みたいな嫌がらせはしない。そんな予感がした。

 「ええ。私も気にせず『嫌な女』を続けるわ」

 負けじと笑顔で言い返すと、ヴェロニカは苦い薬でも飲んだように顔を歪めたあと、ベッと舌を出して去っていった。
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