悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 静けさを取り戻した医務室を片付けながら、ふと懐かしさが胸をよぎる。

 故郷にいた頃、転んで怪我をした妹の手当てをしてやったことがあったっけ。あの子は容姿しか褒められない私に、「優しい」とか「器用」とか、思いがけない長所を見つけてくれた。そのくせすぐ「それに比べて自分は」なんて落ち込んで、私が何度「世界一可愛い」と言っても、最後まで信じなかった。
 食べるのが大好きで、笑うとまん丸になる頬。泣き虫で甘えん坊で、別れ際、姿が見えなくなるまで手を振っていた。その時の泣き顔が鮮やかに浮かぶ。
 目の奥が熱くなり、慌てて指先で涙を拭った。

 「アイリス殿?」
 「えっ……エミリオ殿下」

 振り返ると、扉のところにエミリオ殿下が立っていた。深刻な顔で一歩踏み出し、私の表情を覗き込む。

 「あの女に嫌がらせでもされたのか!?」
 「え?」

 誰のことだろうと頭の中で候補が巡るが、その誰とも違うので首を横に振る。

 「いえ、ちょっと故郷のことを思い出していただけです」
 「……そうか。よかった」

 ほっとしたのか、殿下の表情がふわりとほどける。
 私の涙に動揺してくれたのがなぜか嬉しくて、同時に後ろめたかった。

 「また会いましたね」
 「ああ。少し医官に用があって」

 誤魔化すようにそう言うと、殿下が照れたように笑った。

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