悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 自然と階段を上る足が速くなる。

 ふと、自分のものではない足音が上の方から聞こえてぎくりと固まった。
 視線を向けると、三階へ向かう人影が見えた。

 ゆっくりとした動作。長い髪。裾がふわりと翻るのが見えた。
 女性だ。きっと上級女官の誰かだろう。私と同じで、水を飲みに行った帰りだろうか。
 そう思うのに、なぜか呼吸が浅くなる。

 よせばいいのに、気づくと私の足はその人物の後を追っていた。
 距離を詰めすぎないように歩調を緩める。
 暗い廊下を照らす小さな明かりを頼りに、じっと目を凝らす。

 イレーヌだ。
 髪も夜着も乱れている。ふらつく足取りが危なっかしい。

 上級女官である彼女が三階の居住区域に向かうのはなんらおかしくはない。
 けれど階段を上り終えた時に見えた彼女の横顔が、鬼気迫るものに見えたから。

 一歩進むごとに不安が大きくなっていく。
 どこに向かう気だろう。
 自室に戻るのではない。彼女の部屋はもう通り過ぎてしまった。

 この先にあるのは。
 曲がり角の手前で、イレーヌがぴたりと足を止めるのを見て慌てて物陰に隠れる。

 彼女の横顔が憤怒に歪むのが見えた。
 危険だ。

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