悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「何をしている、捕まえろ」
 「ハッ!」

 状況を把握しかねて戸惑っていた兵士二人が、エミリオの冷静な命令に弾かれたように返事をしてイレーヌのあとを追う。

 「アイリス殿、一体何が――」
 「ケガの処置の方が先でしょ」

 床にへたり込んだ私と、視線を合わせるように屈んで事情を聞こうとするエミリオを、遮るようにロベリアが言う。
 不機嫌そうな声だ。イレーヌを逃がしてしまったからだろうか。

 「怪我⁉ 本当だ! アイリス殿、肩から血がっ」
 「邪魔」

 打って変わって動揺して慌てふためくエミリオ殿下の身体をドンと押しやって、ロベリアが私の前に膝をついた。

 「貴様、何をする!」

 不意を突かれて尻もちをついたエミリオ殿下が、うっすらと頬を染めて抗議するが、ロベリアはそれを無視した。

 「見せて」
 「え? あ、うん」

 そう言って私の腕にそっと触れる。
 痛みを気遣うような、優しい手つきだ。
 微かに震えているのは、イレーヌが怖かったからだろうか。

 ロベリアの手にはハンカチが握られている。
 陛下からのプレゼントだろう。美しい刺繍の、一目で上質と分かるシルクのハンカチだった。

 「えっ⁉」

 そのハンカチを、ロベリアは躊躇なく私の傷口に巻いた。
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