悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 ごちゃごちゃ考えるのをやめて顔を上げると、前方に父が見えた。

 ロベリアという新入りはもう一緒にはおらず、代わりに宰相のルキウスが父と話をしていた。
 険のある表情からして、また何か父に説教しているのだろう。
 彼はこの国王偏重の宮廷内で、父に意見を言える数少ないまともな臣下だ。

 「まったく……なぜエミリオ殿下と相談することもなく勝手に」
 「ええい、うるさい奴め。あやつなどただの雑用だ」
 「殿下は立派に後宮を運営されています」

 鬱陶しげに言われても、怯むことなくルキウスが反論を続ける。
 ありがたいことに、僕をかばうようなことまで。
 自分もあんなふうに父に意見を言えれば、どれだけ良かっただろう。

 「空き室はいくらでもあるのだ。部屋を与えるくらいよかろう」
 「それでは他の女官たちに示しがつかないでしょう」
 「部屋を、なんですって?」

 嫌な予感がしつつも、聞き流せない言葉が聞こえておっかなびっくり話に加わる。

 「殿下」

 ルキウスが僕に気づいて恭しく首を垂れる。
 その仕草に軽蔑や見下しの色はない。父に反論するからといって、王族に対する敬意がないわけではないのだ。
 『娼館のオーナー』なんて揶揄される僕にさえ、その態度を崩さない稀有な存在だ。

 「殿下からもおっしゃってください。陛下は下級女官に部屋を与えると約束したそうです」
 「そんな!」
 「別に構わんだろう。離宮の個室は余っておるのだから」

 不貞腐れた顔で、開き直ったように父が言う。
 では、ルキウスの言葉は本当なのだ。
 そう理解して頭を抱えたくなる。

 最上階に個室を与えられること。それは上級女官にだけ許された特権だ。
 その特権を欲して女官たちは必死に教養を身につけ、美しさに磨きをかけ、なんとか危うい均衡を保てているのに。

 新人の、しかも庶民の娘にいきなり部屋を与えるなんて、いったい何を考えているのか。
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