悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「庶民は下級女官として地下の大部屋から始める決まりです!」

 思わず声を荒らげてしまう。
 けれど父はうるさそうに顔を顰めただけで、何が悪いのかという態度だ。

 後宮にいる者はすべて、基本的には父のために仕える女官という肩書だ。
 特に庶民や低位貴族の娘は下級女官として、上級・中級の小間使いや離宮の掃除や給仕などの下働きを担う。
 そこで後宮のルールや貴族の作法を見て学ぶのだ。
 
 一年の下働き期間を経て、優秀だった者だけが高位貴族の娘と同じ中級女官に昇格でき、二階の二人部屋に移り住む。
 そこからさらに半年の教育期間を経て、ようやく父の寵を正式に許される身となる。
 その上で気に入られた者だけが、今度は『部屋付き』とも呼ばれる上級女官となり、最上階に個室を与えられ、初めて王妃候補の側室として認められるのだ。

 だというのに父は、新入りに部屋を与えたと言った。
 それはつまり、下級女官として働く期間も教育期間も飛ばして、一気に上級女官の座を得たも同然ということになる。
 父にそのつもりはなかったとしても、後宮のルールの中で生きる女性たちはそう受け取る。反感を買うのは明白だった。

 「こ、困ります陛下、勝手に決められては、他の女官たちがどう思うか」

 後宮のトップを気取って、支配者のように振る舞うイレーヌも。
 あまり優秀ではなく教育期間が伸びて燻っている中級女官たちも。

 なにより、延期を余儀なくされたアイリスはこのことを聞いたらどう思うだろう。

 「不満が続出しますし、そうだ、そうなればロベリアという娘も無事では済まされないかも」

 しどろもどろに、不和の種となることを懸命に告げる。けれど父の表情は不快げに歪むばかりで響いた様子はない。

 「それをうまくまとめ上げるのがお前の仕事だろう」
 「っ!」

 言い返せずに言葉に詰まる。
 結局僕はいつもこうだ。
 情けなくて仕方ないが、父を言い負かせるだけの言葉を持っていない。
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