悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 あれは間違いなく厄介な人種だ。
 下手をすれば後宮の支配者を気取るイレーヌよりも。

 だがもし父がロベリアに夢中になったなら。
 アイリスはこの先もずっと中級女官として、父に汚されずに静かに過ごせるかもしれない。
 そんなずるい算段が自分の中にあることも自覚していた。

 「期待しておるぞ……ふむ、これからアイリスの元にでもと思ったが、興が削がれてしまったな」

 アイリスの名が出たことにぎくりと身体が固まるが、父は上機嫌そうに顎髭を撫でると「余は部屋に戻る」と言い置いて、軽やかな足取りで本宮に引き返していった。

 「……一体どんな女性なのですか、そのロベリアというのは」

 その背中を見送りながら、ルキウスが眉根を寄せて僕に問いかける。

 「庶民の娘をあのように気に掛けたことなど、今までありました?」

 こちらに視線を向け、重ねるように聞いてくる。その表情には困惑と警戒が滲んでいた。
 僕はなんと答えるべきか迷う。

 ルキウスの言いたいことはよく分かる。
 いくら美しいと評判の貴族令嬢でも、実際に会ってみるとそうでもなかったということは多々ある。
 特に後宮などという、美しい娘が集まる場所で目が肥えた父にとって、期待値を超えてくることはそうそうない。
 ましてや後宮入りしたばかりの庶民の娘など、磨かれる前の原石どころか、ただの形のいい石ころでしかないはずなのに。

 「僕も直接会話をしたわけではないのでよく分からないけど……」

 それも王子としてではなく、護衛か何かだと思われたのだけど。

 美しい女性だったと答えるのは簡単だ。
 確かに美しかった。容姿だけで言えば、もしかしたらアイリスよりも上かもしれない。

 だがあれは異質な存在だ。直感がそう告げている。

 「そうだね、傾国の美女って感じだったかな」

 しかし何が引っ掛かっているのか上手く言葉にできず、訝るルキウスに曖昧に笑ってそう答えた。

 その場しのぎの言葉だったが、それが妙にしっくりきた。
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