悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「ねぇ、陛下? 今宵はわたくしのもとにいらしてくれるのでしょう?」

 今は粗ばかりが目につく。
 声が高すぎる。香りが強い。目尻のシワがみすぼらしい。
 何より、余にすがる手がべったりと貼りついて鬱陶しい。

 「――興が削がれた。部屋に戻る」
 「そんな! お待ちください陛下!」

 踵を返してその場を去ろうとする余の袖を、イレーヌの枯れ枝のような指が掴む。
 昔ならそのまま引き寄せ、部屋へ連れ込んだかもしれない。
 今はただ煩わしかった。

 「ほんの少しでよろしいのです。陛下のお好きなお茶を」
 「要らぬ。余は忙しいのだ」

 冷徹に遮り、イレーヌの手を振り払う。
 イレーヌの瞳が一瞬だけ揺れたが、すぐに笑顔に変えた。彼女はどこまでも貴族で、淑女だ。
 余に一心に尽くすことだけが取り柄の、つまらぬ女だ。

 「下がれ」
 「……かしこまりました」

 一歩引いて、イレーヌが深々と頭を下げるのを背中に感じながら、振り返ることなく本宮への道を引き返す。
 角を曲がる頃にはもうイレーヌは頭から消えていた。

 思うのはロベリアのことばかり。

 もう寝ただろうか。余の与えたシルクの夜着は気に入っただろうか。
 きっと今頃余の夢を見ているに違いない。明日は何を話そう。何を贈ろう。何を。

 ――女官に浮かれている場合ですか。

 一瞬、ルキウスの顔が脳裏をかすめる。だがそれを振り払うように笑う。

 余は忙しい。
 そう、忙しいのだ。
 彼女に会うために、彼女の心を手に入れるために。

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