悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 イレーヌは上級女官に昇格することを最大の栄誉と思っているようだけど、私は違う。
 彼女のように個室を与えられたって、陛下の訪れがここじゃなく自室になったって、何も嬉しくはない。
 いつ陛下が来るのかと緊張しながらでは、個室でも心が休まる暇がないではないか。
 なら今の二人部屋のまま、ここに呼び出される方がまだいい。
 むしろ陛下の訪れがないなら、それが一番だ。
 そして今いる上級女官たちの中から正妃様が選ばれて、後宮制度なんてものが不要になって。

 「帰りたいな……」

 ここのところ、領地に帰って家族に温かく迎え入れられることを想像してばかりだ。
 優しい両親。意地悪な兄。それに私を慕ってくれる可愛い妹。
 彼らとの穏やかな暮らしに戻りたい。

 「なんてね。運良く先送りされただけで、これで終わりじゃないのに」

 ありえない妄想を無理やり中断して起き上がる。

 現実は非情だ。冗談でも帰りたいと言えば、ガーランド伯爵家の名に傷がつく。
 後宮はイレーヌ一派が牛耳っていて、少しでも瑕疵があれば百倍にして告げ口されてしまうから一時も気を抜くことができない。
 そして私は明日からも彼女たちの嫌がらせに黙って耐えるしかない日々だ。

 そこまで考えて、ふとイレーヌの言葉が気になった。

 「庶民の新入り、だっけ」

 イレーヌはどうせすぐ飽きると慢心していたけれど、本当に放っておいてもいい存在なのだろうか。
 美女ばかりの後宮においてさえ陛下の関心を強く引いた庶民の女性。それはもはや異常事態といえるのではないのか。
 一体どんな人なのだろう。

 「ひょっとして、権力闘争をひっくり返しちゃったり……?」

 なんとなく口にしてみるが、言葉にしてみるとさっきの妄想以上にありえないことに思えた。

 「……ふふ、なんてね」

 クスクス笑いながら、寝所を立ち去る。
 この後宮は私が入るずっと前からイレーヌ一が支配していて、彼女の機嫌次第で後宮全体の雰囲気が左右されてしまう。
 それは彼女たちの中から正妃が選ばれるか、あるいは彼女たちが後宮から去るまで変わらないだろう。

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