悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「はぁ……もう下がっていいわ。次はなくてよ」

 温情の言葉をかけると、女官は大慌てて立ち上がり、雑に頭を下げて勢いよく部屋を飛び出していった。

 「まったく……礼儀も作法もなっていませんね」
 「仕方ないわ、庶民の娘ですもの」
 「ああ、あの野卑な誰かさんと一緒の」

 リュシーとヴェロニカが、開けっ放しになってしまった扉を見て意地悪く笑う。

 「そうだ、イレーヌ様。例の『贈り物』、ちゃぁんとあの女の部屋に置いてきましたわ」

 リュシーがくるりとこちらを向いて、得意げな顔をする。
 彼女が言っているのは、一時貴族令嬢の間で大流行した香水のことだろう。
 とても香りがよく、瓶のデザインも洒落ていて、流行に敏感な令嬢たちはこぞってその香水を欲しがった。
 けれど香りを持続するために使った成分が、身体に悪影響を与えるということが後に判明したため、すぐに発売中止となってしまった。
 使い続けると、肌が変色してくるのだ。

 今は高級品に囲まれて舞い上がっているかもしれないが所詮は庶民。
 この香水の存在は知らないに違いない。
 陛下からの贈り物に混ぜてしまえば、あの女は大喜びでこの香水を使うだろう。

 「リュシーさんは本当に伝手が広いのね」

 わたくしの言葉に、リュシーが頬を紅潮させ小鼻をひくひくと膨らませた。
 とっくに廃番になったその香水を、どこから見つけてきたのかはあえて聞かない。きっと犯罪まがいの手を使ったのだろう。
 知ったことではないが、とりあえず適当に誉めておけば、わたくしに気に入られたくて仕方ないリュシーはまた勝手に動いてくれる。

 今回だって、わたくしはただふと思い出してあの香水の名前を呟いただけ。そういえばそんな粗悪品もあったわね、なんて。
 ロベリアへのプレゼントにしようと言い出したのはリュシーだ。
 わたくしは誰かのプレゼントに口出しするような品のないことはしないだけ。

 「ねぇ、三人でお楽しみのところ悪いんだけど」

 和やかな空気の中、唐突に紛れ込んだ声に皆の表情が凍り付く。
 視線を移すと、開け放したドアの向こうに今一番顔を見たくない女が立っていた。

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