悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「言ったはずだ。余計なことはするなと」

 聞いたことのある声だ。
 これはそう、若き宰相、ヴァーミリオン公爵家の当主。
 ルキウスとは同じ公爵家の者同士、何度も顔を合わせたことがあるからすぐに分かった。

 「あら、全然余計じゃないわ」

 続いて聞こえてきた声に、自然と表情が険しくなる。
 今最も聞きたくないと思っていた女の声だ。どうしてこの女はいつも、わたくしの行く手を遮るのか。

 「あなたも素敵だと思わない?」
 「どこがだ。おまえのせいで陛下の仕事が一向に片付かない」

 だが、遠目にも二人の雰囲気は剣呑さを帯びている。
 無意識に噛みしめていた奥歯から、力が抜けていった。
 
もしかしてあの噂は本当だったのだろうか。
 宰相がロベリアを警戒して排除しようとしている、なんて。

 「とにかく、追い出されたくなければ大人しくしていろ」
 「お断りよ。あたしが何をしようとあたしの自由だもの」

 うんざりしたようなルキウスに、ロベリアが傲然と言い返す。

 馬鹿な女、と笑い出しそうになるのを懸命にこらえた。
 相手はあのルキウス・ヴァーミリオンだ。
 陛下にすら対等にものを言えるこの男を敵に回せば、身の程知らずの愚か者などひとたまりもない。

 これを利用しない手はない。
 案の定、二人の話し合いは見事に決裂したようで、互いに別方向に向かって歩き出す。
 ルキウスが角を曲がるタイミングを見計らって、わざと一歩を踏み出した。

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