悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「きゃっ」
 「っと……失礼、イレーヌ殿でしたか」

 よろけたわたくしの身体を素早く支え、ルキウスが驚いたように目を見開く。

 「こちらこそ申し訳ございません、宰相様」

 深く頭を垂れ、影を作る声で続ける。

 「なぜ夜にこのような場所へ?」

 訝し気に問われて、神妙に見える表情を作る。

 「実はその、お二人の話し声が聞こえて……」
 「……どこから聞いていました」
 「いえ、内容はほとんど聞こえませんでした。ただロベリアさんのことで、お伝えしなくてはいけないことが……」

 わざと言い淀むような間を空けて、上目遣いにルキウスを見る。
 彼は続きをせがむようにじっとわたくしを見つめていた。
 その視線を受けて、意を決した風を装って話し始めた。

 「……彼女は宝物庫から下がった品を、闇で換金しております。古株の下級女官を金で抱き込み、搬入の帳簿を一部改竄させて。証拠は巧妙ですけれど、部屋には隠し引き出しがあって――」
 「続けて」

 感情の色が無い声だったけれど、確かな手ごたえを感じて、心臓の音が速くなる。

 ロベリアの罪をでっち上げるのは簡単だった。
 同じことを実際に行っている者がいたから。
 調べられても問題ない。その者の罪をロベリアになすりつけてしまえばいいのだ。

 ひとしきり語り終えたあと、わずかな沈黙を挟んで、ルキウスが短く頷く。

 「あとはこちらで確認します。イレーヌ殿はどうか、身の安全を第一に」
 「ええ。任せましたわ」

 それだけ。
 けれど十分だった。わたくしは完璧な礼を作って身を引く。

 背を向けた刹那、腹の底で煮えたぎるようだった熱が、氷のような冷たさに変わっていることに気づいた。
 そのことに満足して、唇が笑みの形に吊り上がる。

 そう。これが本来のわたくし。
 感情を揺るがせるなんて、淑女の振る舞いではないもの。

 ロベリア。勝った気でいられるのも今のうちよ。せいぜい宝石に埋もれて得意になっているといい。

 王妃になるという甘い夢を醒まして、敗北よりひどい気分を味わわせてあげるから。
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