悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 あと少しで唇が触れ合う。目を閉じた瞬間、彼女の指先にそれを阻まれた。
 
 「残念ね」

 息のかかる距離でロベリアが言う。

 「あたしの唇はそんな安くないの」

 至近距離で微笑まれる。こんなに近くから見ても、何一つ欠点が見つからない。
 芸術品のような造形だ。

 「それに、あなたのものになったらイレーヌさまはもっと逆上するのではなくて?」
 「……は?」

 思いがけない名指しに、咄嗟に発した声が掠れる。
 ロベリアが反応を伺うようにじっとオレを見ている。

 その目は「知っているのよ」と言っているようだった。

 「いいえ彼女だけじゃないわね。他にもたくさん。ふふ、陛下が知ったらどう思うかしら」

 猫のように目を細めて、酷薄な笑みを浮かべる。
 その表情に、脅されているのはオレの方だと気づいて、危機感を覚えるよりもゾクゾクしてくる。

 「……冗談だ。本当は顔を見にきただけ」

 これ以上食い下がるのは格好悪いと判断し、笑って身を引く。
 ロベリアは「賢明ね」とだけ言って、軽く肩を竦めた。

 「今日は退散するよ。今度来るときはもっといいものを持ってくる」
 「懲りない人」

 ロベリアの苦笑に後ろ髪を引かれながら、ドアに手をかける。
 去り際、振り返ったオレに、彼女の目がほんの一瞬だけ縋るみたいな色を帯びた。
 錯覚かもしれない。けれどその目が、妙に頭に残った。

 廊下に出て、自分の鼓動が微かに速いことに気づいて笑う。
 イレーヌの部屋に行く気は失せていた。
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