悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 不思議に思いながらも洗濯所に辿り着くと、予想通り洗濯物が中途半端に放り出されていた。
 苦笑して続きに取り掛かる。

 実家ではメイドが、ここでは下級女官の子がやってくれているけど、実のところ私は洗濯も掃除も嫌いではない。
 汚れを落とすことに集中していれば、周囲の雑音が遠のいていく。やっかみも哀れみも、不平も不満も、私の内側から消える。
 その瞬間が好きだった。

 「ぅわっ」
 「きゃっ」

 黙々と作業をしていると、唐突に聞こえてきた男性の声に驚く。

 「え、エミリオ殿下」

 慌てて立ち上がり、スカートの裾を直して「こんにちは」と挨拶をする。

 「ああ、その……どうしてアイリス殿がここに?」

 エミリオ殿下は戸惑ったように、誰もいない洗濯所を見回しながら問う。
 中級女官の私がこの場にいるのが不思議なのだろう。

 「することもないですし、今日はいいお天気なので」
 「す、すまない、デリカシーのないことを……」

 なんの気なしに答えると、なぜか殿下は「まずいことを聞いてしまった」というように眉尻を下げた。

 「陛下は今、その、政務で少し忙しくて」

 モゴモゴと、非常に言いづらそうな説明を聞いてようやく気づく。
 初夜がずっと延期されていることへの不器用なフォローだ。

 陛下が公務も政務もサボって、新入りに夢中だと後宮の誰もが知っている。
 それでも陛下の視界に入らない私に気を配ってくれる優しさが、温かくてありがたい。
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