悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 美容にいいという果物を入手するため、後宮裏手の食糧庫に向かう。

 「その箱は私が持つわ。重いでしょう」
 「だ、大丈夫です。アイリス様こそ、綺麗な手に傷が……」

 生き生きとした声と、恐縮した女官の声が聞こえてきて自然と口元が緩む。

 「取り込み中すまない」

 声をかけると、荷下ろし中の女官たちが一斉に振り返り、一人を除きギョッとした顔になる。

 「でっ、殿下!」

 慌てて頭を下げようとする女官たちを「続けてくれ」と手で制す。
 すぐに作業を開始した女官たちの間を、縫うように進んでいく。
 倉庫の扉の前で大きな木箱を抱えていたアイリスが、「こんにちは」という挨拶とともに温かな笑みを浮かべた。

 「またお会いしましたね」
 「ああ。お互い会うはずのない場所で」
 「あはっ! 本当にそうですね」

 僕が自虐を込めて言うと、アイリスが弾けるような笑い声を上げる。
 彼女の笑顔を見ると、胸にたまった鬱屈が霧散していくから不思議だ。

 少し前までの彼女は、静かに微笑む人だった。イレーヌに明らかな嫌味を言われても、侮辱されても、凪いだ風のように穏やかな笑みで「お気遣いありがとうございます」と受け流していた。
 僕が仲裁に入っても「気にしておりません」とほとんど表情を崩さずに。

 イレーヌの取り巻きたちはそんなアイリスを「鈍い」と評していたが、いさかいを起こさない方法を熟知しているのだと気づいていた。
 ただでさえ目立つ容姿をしているのだ。少しでも反論すれば角が立つ。
 後宮管理人で男の僕が表立って庇えば余計に悪化するのも分かっていて、助けようとする僕を何度も視線で制した。少しでも生意気と認識されれば、嫌がらせはエスカレートしていっただろう。

 そう、まさに今のロベリアのように。

 あれはアイリスなりの処世術だったのだ。
 その証拠に、女同士の争いから離脱した彼女はこんなにも楽しそうに笑う。
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